ミライジン

「……なぁ。着いてきてや……。」

と、言います。この時僕は、最低ながらも、自分も逃げておけば良かったと思っていました。いくら空き家とはいえ、その家の持ち主自体はいるだろうし、これがバレれば、親や先生に怒られるのは間違いない。
しかし、このままA助を放っておく訳にも行かないので、仕方なくついて行くことにします。
しかし、空き家なので、家のチャイムを鳴らしても、当然誰も出てきてくれません。仕方なく、僕は裏側から、A助は前から入れるところを探していきます。今思えば、住居不法侵入なのですが、当時小6だった僕らはボールを取り戻す一心だったんです。
裏側に回ると、壁には、子供1人通れそうな穴が空いているんです。
その穴をくぐると、そこは台所だったのですが、ボールが破壊した窓は2回なので、階段を探さないと行けません。1階は、床は埃まみれで、所々床が抜けているので、気をつけながら歩いていきます。すると廊下の突き当たりに、階段が伸びていました。ギシギシと軋む階段を、ゆっくりと上がっていきます。階段を登りきると、僕は違和感に気づきます。綺麗。１階とは違って、まるで誰かが住んでいるような感じなんです。だいたいここら辺かな？なんて思いながら、廊下の1番奥のドアノブに手をかけます。

その時、ガタン!! という大きな音
が、1階から聞こえます。A助が入ってきた？とも思ったのですが、その後に聞こえた足音が、どんどん遠ざかって行くんです。

(家の中に元々人が居たってこと？)
僕は気味悪くなり、早くボールを取って出ていこうと、ドアノブを回します。するとそこには、割れた窓ガラスの破片。お目当てのボール。

そして……

「T遥!?」

さっき逃げたはずのT遥が、自分の目の前に倒れているんです。僕は一瞬目を疑いましたが、すぐにT遥の元に駆け寄ります。

「おいT遥！大丈夫か？お前、逃げたんじゃなかったん？」

T遥を揺さぶって見ますが、反応はありません。僕はもう完全にパニックで、ボールをポケットに突っ込んで、T遥を担いで逃げようとした時、

トン……ギシ……トン……ギシ……

階段を登る音。恐怖が畳み掛けるように襲ってきます。
残念ながら部屋の中は殺風景で、隠れる場所なんてないし、今から部屋を出ても、廊下は1本道なので、必ず鉢合わせになる。
もしかしたらA助かもしれない。しかし、僕の中で、A助でないことは何故か確信していたんです。
もう僕に残された選択肢は、正直謝るということ。やがてその足音は、部屋の前までやってくると、ゆっくりとドアが開きます。謝ろうと口を開いたのですが、そこで僕は言葉をつまらせます。僕の目の前に現れたのは、身長2m越えの大柄の男。しかし、マスクを被っているので、顔は分からない。

(え？これ……だいぶやばいんじゃ)

そう思いながらも、なんとか謝ろうとするのですが、僕の口からは
「え…あ……」のような、声しかでないんです。そしてその男は僕に訪ねます。

「あーあー。やっぱり入ってきてたか。少年。ここ以外の部屋を見たかい?」

僕は必死に首を横に振ります。そんな僕をおじさんは見下ろしながらこう言います。

「おじさんたちはね。ミライジンなんだよ。でも、もうミライジンの世界に帰らないといけない。
ボールは返してあげるし、家にも帰してあげるよ。ただし、約束を一つだけ守って欲しい。絶対に誰にも言うな。いいかい？そこにいる……T遥君だっけ?その子も含めて、僕らのことは忘れてもらうけど、君は無理だ。僕と喋った時間が長すぎる。だから誰にも言わないで欲しい。
あー。あと、T遥くんのクローン……って言ったら伝わるのかな？あれは撤去したから、明日からT遥君は普通に戻るはずだよ。」

そう言うとおじさんは、軽々とT遥を持ち上げると、僕を玄関まで案内し、そのまま無事外に出られたんです。A助は結局いなかったから、そのまま逃げたんだと思います。しかし、A助は夏休みが明けると同時に引っ越してしまったので、問いただすことは出来ませんでした。
ここまでが、僕が小学六年生の夏休みの出来事。
そして、最近になって電車の中で、偶然A助と会ったんです。始めは誰かわからなかったのですが、すぐにA助だと分かったんです。