赤い雨

　屋根のほとんどが無くなったらしい

　父の遺体も雨にやられてズブズブになったという

　「今まで有難う」

　お互いにそう言い合った

　「あなたも苦しまないように・・・ね、次は天国で会いましょう」

　そうね、もう無理だよね

　赤い雨は止まない

　もしかしたら奇跡が起きるかもしれない！と思い返し、数日間は頑張ってみた

　だが4階建てのアパートの3階で、たった1ヶ所だけだったが、雨漏りを見つけたら、もうすべてのやる気がなくなった

　「世界中で自殺が急増している」
そういう報道を最後に、うちのテレビは映らなくなった

　ネット環境も壊れた

　唯一ラジオだけは聴けるが、もう誰のどんな励ましも聞きたくない

　決行は夜にした

　その前にアパートの全部屋に手紙を入れた

　『302号室の太山の部屋に、缶詰やトイレットペーパーなどの物資があります。欲しい人は勝手に入って持って行って下さい。ただ、たくさんの人が欲しいかもしれないので、一度に取り過ぎないようにして下さい。お世話になりました』

　誰か取りに来るかな？もしかしたら皆、もう死んじゃったかな？

　取りに来ても僅かに命が延びるだけかも知れないけど、ギリギリまで行きたい人には喜ばれるだろう

　長くて細い包丁を持ってベランダに向かった

　もう半分以上、ベランダは無くなっていた

　
　相変わらず、赤い雨は降っている

　そんな中で、月が見えた！

　丸くて大きな月が！

　とても懐かしい月が！

　雨が降っても月が見えてるのは、もしかしたら幻かも知れない