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ヒトコワ

活動休止中さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

いけない子
短編 2022/06/03 12:36 7,838view
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「この子はいけない」

 私の母の知人の原さん(仮名)は、第一子目を妊娠したときに、そう思ったのだという。何がいけないのかは原さん自身にもわからなかったが、堕胎を考えるほどだったそうだ。
 しかし、いわゆるマタニティブルーだと片付けられ、不安な気持ちのまま、出産した。子どもは男の子で、聡(仮名)と名付けた。

 いざ産んでみると、不安が嘘のように消え、聡くんもすくすくと成長した。
 ところが、聡くんが小学校五年生のときに、悲劇が起きてしまう。
 聡くんが、猫を追いかけて道路に飛び出した男の子をかばって、亡くなってしまったのだ。
 原さんとしては、筆舌に尽くしがたいほど悲しい出来事だった。

 不幸中の幸いと言えるのかどうかはわからないが、聡くんがかばった男の子、仮に裕太くんには、傷一つなかった。
 だが、そのことを報告されただけで、裕太くんの両親からは、謝罪も感謝の言葉もなかったのだという。
 そのことが、原さんをさらに悲しみのどん底に突き落とした。

 原さんにとっては、耐えがたい出来事がそれからも続いた。裕太くんは聡くんと同じ学校の二年生だったのだが、裕太くんが、大問題を起こしたと学校で噂になったのだ。
 なんでも、野良猫を何匹も殺した、という話だった。
 ということは、事故のときに猫を追いかけていたときも、殺すために追いかけていたのか……原さんは、そう思うとやりきれない気持ちになった。

「聡、あなたが助けた裕太くんはいい子じゃなかったみたい……」

 聡くんのお墓参りをしたとき、お墓に向かってそう言って、原さんは泣いた。
「生まれちゃいけないのは、裕太くんだったんだよ」
 ふと、そんな言葉が聞こえてきた気がした。それは、間違いなく聡くんの声だったという。

 それからすぐに、原さんに裕太くんの母親から手紙が届いた。
「裕太は、生まれるべきではない子どもだったんです。妊娠したときに、この子は産んだらいけないと思いました。猫殺しも事実です。あのときの事故で死ぬべきなのは裕太でした。本当にごめんなさい」
 手紙はそんな内容だった。原さんは、妊娠したときの気持ちの奇妙な一致に、心底ゾッとしたそうだ。
 裕太くんは、その後転校していって、どうしているのかはわからなくなった。

「あなた、小説を書いているんだってね。このことも、うまく小説にして、できるだけ広めてね」
 話の最後に私にそう言ってきた原さんの表情は、まるで鬼のようだった。

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コメント(10)
  • 読んでるだけでもやるせない気持ちになりました。

    2022/06/03/18:47
  • 作者です。コメントありがとうございます。
    私もこの話を原さんから聞いたときに、本当にやるせない気持ちになりました。

    2022/06/04/05:44
  • 裕太くんのご両親が感謝の気持ちを伝えなかったのは「どうして助けたの!」っていう気持ちがあったからなのかなと思いました。

    2022/06/04/11:46
  • 作者です。コメントありがとうございます。
    私もそんな気がしてしまいました。
    とても悲しい話ですよね……。

    2022/06/04/13:25
  • これはこわい……!

    2022/06/20/20:52
  • 作者です。コメントありがとうございます。
    怖いと思っていただけてとてもうれしいです。

    2022/06/22/19:05
  • 大阪池田小事件の宅間守も、母親が
    「あかんわ、これ、堕ろしたいねん、私。 あかんねん絶対」
    何かを察するように、身ごもった命を否定していたそうですね…。
    悲しいけれど、生まれてはいけない子供は存在するということか…。

    2022/07/12/21:00
  • 作者です。
    コメントありがとうございます。
    非常に難しい問題であるだけに、原さんの話には考えさせられました……。

    2022/07/25/19:48
  • これから裕太の親は優太にどうやって接していくんだろう…

    2023/01/26/22:39
  • 神戸の事件の子も生まれてきてはいけない子だった。

    2023/10/21/23:17

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