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活動休止中さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

生きる希望をくれた傘
短編 2022/07/01 12:24 4,832view
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 私は高校に入学してすぐに苛烈ないじめを受けるようになった。
 最終的には友達だったはずの男子生徒から暴力を受けて、自主退学するしかない状況に追い込まれてしまった。
 それでもすぐには退学が認められず、登校しなくてはいけなかった。正直なところ、今日こそは死のうと思いながら、無理やり登下校していた。

 そんな六月のある日、夕方から雨が降ったことがあった。私はあいにく傘を持っておらず、傘を貸してくれるような人も、もう学校には誰一人いなかった。
 傘を買うお金すらなく、雨に濡れて帰っていると、自然と涙が出てきた。ずぶ濡れの私を、通りかかる人は変な目で見ていた。
 もう、このまま死んでしまってもいい。そうとさえ思えた。

「大丈夫? まだ若いんだから、雨に濡れちゃ駄目よ」

 すると、最寄駅から自宅に帰る途中、そう言って、傘を差し出してくれた人がいた。おばさん、というよりは、おばあさんに近いぐらいの年齢の女性だった。
 私は人の好意が受け入れられなくなっていたので、それすらも無視して行こうとした。
 ところが、おばあさんは私の失礼な態度にも関わらず、私を傘に入れて一緒に歩いてくれたのだ。

「私にもつらいときがあったから。負けないで。この傘はあげるから」
 そんなことを言って、その人は自宅らしき家に入っていった。入るところまでは、はっきりと見えなかった。

 私はそのことが生きる希望となり、じきに無事に高校も退学できた。
 落ち着いてから、記憶を頼りにおばあさんの家に、借りた傘と菓子折りを持って尋ねにいった。

 緊張しながらチャイムを押すと、おばあさんにそっくりだが、なんとなく違う人が出てきた。

 雨の日の一件を話したが、相手は怪訝そうな顔をしている。どうも、娘さんのようだった。
 この傘は確かに母の傘だ、とも言って、娘さんは泣き出してしまった。私は訳がわからないまま、もらい泣きした。

「お母様にお礼が言いたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「私にもわからないの」
 娘さんは、不可解なことを言う。

「母は認知症で徘徊するようになってから行方不明になったの。もう数十年はたつから、生きているとは思えないのだけれど……私も、会えるものなら会いたいわ」

 私は絶句し、そういえば近くの電柱に、行方不明者を探していますというボロボロのポスターが貼ってあったなと思った。
 その行方不明者は、確かにあのときのおばあさんだった。

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コメント(5)
  • 怖いけど、救いのあるお話。しかも実体験とかすごいですね。

    2022/07/09/20:58
  • 作者です。
    コメントありがとうございます。
    そのようにおっしゃっていただけるとうれしいです。
    感謝申し上げます。

    2022/07/09/22:19
  • 切ない話。

    2022/08/18/20:52
  • 超いい話。

    2022/08/20/02:55
  • 貴方は、これから心の痛みの分かる素敵な人になりますね。

    2023/02/14/02:20

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