山田くんの非表示

私のクラスには山田くんと呼ばれる男子がいました。彼はとても温厚かつ物静かで成績も良く、優等生の鏡のような人間でした。

私の通っていた中学では入学時に学習目的でタブレット端末が配られていたのですが、ある日優等生の彼を良く思わない男子3人組が、彼が休み時間に席を離した隙に彼のタブレットを勝手に見たのです。
恐らく彼らは山田くんの黒歴史でも見つけて弱みを握ってやろうとでも思っていたのでしょう。
彼らはタブレットをいじり、「おいおい、アイツの非表示フォルダ見てやろうぜ」などと勝手に盛り上がっていました。教室が騒がしかったお陰もあり、山田くんの隣の席の私以外気付いていないようでした。
彼らがそう言って15秒後くらいでしょうか。
突然3人組の1人の手が震え出し、他の2人も青ざめた顔で不安そうな様子でした。
それからすぐに、彼が教室に戻ってきました。

山田くんは彼らを見てこの世のものとは思えないような満面の笑みでこう言ったのです。「忘れんなよ」と。タブレットを見ていなかった私には意味が理解出来ませんでしたが、彼等はそれを聞いて明らかに動揺が隠せない様子でした。
それ以降彼ら3人はその日を境に学校に来ることはありませんでした。
クラスの人気者だった3人が突如不登校になったことにクラスメイトたちは皆不思議に思っていましたが私にはあの出来事が原因だとしか考えられませんでした。

それから私は中学を卒業し、遠くの高校に通うことになり、その後彼らはどうなったのか。そして山田くんのフォトの非表示には何があったのか。未だに分からないままなのです。

軽い気持ちで人の非表示フォルダを覗かないほうが良いのかも知れません。何故なら、存在しなかったものとして人から隠すための「非表示」なのです。
世の中には知らない方が良いことも沢山あるのです。
これを、是非忘れないでもらいたいと思います。