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不思議体験

Nilgiriさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

無名の山
長編 2023/05/28 14:41 22,403view
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山ガールの話をきくなりCは、
「いいじゃん!チャンスがあるなら、行ってみようぜ。ちょうど、俺んちテントもあるし、キャンプしようぜ。」
とかなり乗り気で、Bと一緒になって騒ぎ出した。かくいう俺も、キャンプなんてやったこともなかったし、山ガールの捜索もやぶさかではなかったので、BとCと一緒になって盛り上がった。山ガールなんているわけないと断言したAも結局まんざらじゃない様子で、そんなこんなで、その日のうちに計画があっという間に決まったのだった。

 田舎だから山は多くあれど、勝手に人んちの山に入るわけにもいかないので、無難にキャンプ場のある山に行くことになった。ハイキングコースも併設されている無料のキャンプ場らしい。俺たちの通う高校近くから、さらにバスで1時間半ほど行った先の超ド田舎にあるところだ。
キャンプ場の駐車場近くにバスの停車場があって、朝夕2本のバスを逃したら、車のない俺たちには他に交通手段がない。

 当日絶対遅刻するなよとお互いに念押ししまくっていたわりに、意外なことに真面目なAがバスの時刻ギリギリにやってきたから、BとCに大いにからかわれていた。絶対Cが遅刻しそうだと話していたのだが、Cは約束通り家からキャンプ道具を一式持ってきてくれたらしくC母がバス停まで送って来てくれた。おまけに、俺たち全員の昼飯のおにぎりまで用意してくれていたようで、俺たちはC母にお礼を言って時刻通りやってきたバスに乗り込んだ。

 さて、田舎のバスにはよくあることだが、バスには俺たちしか乗っていなかった。どこでも座り放題だったが、その時は何となくAとC、Bと俺に分かれて後ろのほうの席に座った。そして、座ってから気が付いたのだが、Bのリュックがやたらとでかいのだ。ほんの1泊の予定にもかかわらず、Bのリュックは俺の荷物の倍以上もありそうだった。
気になった俺はさっそくBに聞いてみた。

「お前、リュックぱんぱんじゃん。何持ってきたんだよ。」

「お、気づいちゃった?ちょっといいもん持ってきたから楽しみにしとけよ。」
Bは何やら思わせぶりにニヤッと笑った。
「なんだよ、もったいつけてないで教えろよ。」
「どうしようかな~。まぁ○○(俺の名前)ならいっか。ちょっとだけ、だぞ。」

そしてBが俺に向かってリュックの口を少し開いて見せた。リュックには、バカでかいポテトチップスの脇に明らかにアルコールの瓶がちらっと見えている。
「お前!」
驚いた俺が、声を上げようとすると、Bが慌てて口をふさいだ。
「シーっ。大声出すなよ。Aが気づいたら、またうるさいだろ。どうせあいつだって飲むくせにさ。ただ、山に登るだけじゃ楽しくないだろ。」
あっけらかんとしたBに呆れを通り越して、ちょっと尊敬の念すら覚えつつ俺は、

「お前、まじで大物だわ。」
とこぼすしかできなかった。

「けど、思ったより重いんだわ。○○の荷物少ないじゃん。向こうについたら、時々荷物交換してくれよ。」
「それが狙いか。」
「どうせ、みんなで飲むんだしさ。いいだろ~。あと、CとAには黙っとこうぜ。ギリギリでばらしたほうが驚きそうだし。」
Bが俺だけに教えてくれたのは、向こうのバス停についてからキャンプ場まで荷物を運ぶのを手伝わせるためらしい。そういえば、Aがバス停からキャンプ場までちょっと距離があると言っていたから、Bは飲み物の入ったリュックを一人で運ぶのは大変だと考えたのだろう。まったく妙なところで用意周到なやつだ。

 その後は、ゲームや学校の話をしつつ、バスは次第に山の麓へと向かっていった。
相変わらず、バスの客は俺たちだけで、バスに乗ってから通り過ぎたどのバス停でも誰一人乗ってくることはなかった。つまり、今日キャンプ場にバスで向かっているのは俺たちだけということだ。バスが進むにつれて、すれ違う車も徐々に少なくなり、俺は何だが嫌な予感がしていた。まさか、キャンプ場に向かっているのが、俺たちだけってことはないよな…。思わずバスの後ろを振り返ってみたが、後続の車は一台もいなかった。

そしてバスが山道を登りしばらく進むと、アナウンスが聞こえる。
「次は、○×キャンプ場前。次は、○×キャンプ場前です。」
どうやら、バスはもうキャンプ場のすぐ近くまでやってきたらしい。といっても、まだ周囲には駐車場もキャンプ場も見えない。バス停の近くには駐車場があると聞いていたから、そのうち駐車場が見えてくるのかと思ったが、そんなこともなく、バスは上り坂のある道の手前で停車した。どうやら、この上り坂の上に駐車場もキャンプ場もあるらしい。どうせなら、上まで送ってもらいたかったが、バス相手にそんな注文を付けられるわけもなく、俺たちは荷物を降ろして、バス停に降り立った。そしてキャンプ場を指し示す看板にしたがって上り坂の道を歩き始める。

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コメント(6)
  • 読み応えありました。

    2023/05/28/20:08
  • おもしろかったよ。

    2023/05/30/22:17
  • B君は家出じゃないね。
    突然行方不明になり、事故、事件関係ない場合は違う世界に行ってしまったのかもしれない。
    背景が目に浮かび、釘付けになりながら読ませて頂きました。

    2023/05/30/23:31
  • 後味まで含めて、とても不可解で不思議な話でした。
    変な因縁話がないのがとてもリアルで読みふけってしまいました。
    面白かったです!

    2023/05/31/23:17
  • b君は結局家出なのか、遭難なのか、考えさせられますが、リアルに有り得る話で楽しく読ませて頂きました。恐さよりも不可解でしたね。

    2023/06/11/16:26
  • 面白かったです。

    Aは性格上、この異常すぎる事件に関わるのはヤバいと思って割り切ったのか
    本当はあの祠の事について知っててBの行方も知ってたのか
    それとも超常的な何かに取り憑かれて警告したのか。
    何れにせよ真面目とされてたAがあんなふうに友達に対して冷淡になったのは興味深いですね。

    2023/07/15/04:46

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