誰もいない列車の中で

友人の家に遊びに行った帰り、私は列車に揺られていました。
車内は空いていたのですが、なんだか蒸し暑い気がして、気分転換にデッキに出たんです。

やがて、一人二人と降りていって、私が乗っていた車両の人は、皆降りてしまいました。そこで、車両に戻って座席に座った私は、車窓の外の景色を眺めていました。と、不意に数人の話し声がしたので、まだ乗ってる人いたんだと思ったんです。

どんな人だろうと振り向くと、誰もいなくて、話し声も聞こえません。
ですが、また私が車窓に視線を移すと、話し声がしてくるんです。それも、男性や女性、さらにはあらゆる年代の人の声がして、私は慌ててデッキに出ました。やはり何度見ても、車両の中には誰もいません。

デッキにいたら何も聞こえないのに、なぜ車両の中では声がするのかサッパリ分からないのです。違う車両に行こうかとも思ったのですが、なんだかそれも怖い気がして、デッキに立っていることにしたんです。

ですが、やがてデッキにいても話し声が聞こえてくるんです。何を話しているかははっきりわからないものの、年配の男性や若い女性、色々な人の声がしました。

とにかく早く駅に着いてと、祈りながら電車に乗っていると、どんどん声が近づいてくるんです。
逃げなきゃと思うのに、体が強張って動きません。

と、不意にポンッと肩を叩かれて、ビクッと振り向くと、駅員さんがいました。
「大丈夫ですか？顔が真っ青ですよ？」
「大丈夫、です」
と、それだけ言うので精一杯でした。