夢と現実の狭間の鎧武者

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、安らかに成仏して下さい」
そんな事を真顔でパソコンの画面に語りかける姿は傍から見たらさぞ滑稽に違いない。

しかし幸いこの部屋には今、私以外ペットのうさぎしかいない。うさぎは暫くこちらを見ていたが、静かに顔をそむけた((泣笑))うさぎは空気を読むのが得意というが、まさにその通りのようだ。

その日の午後、私の予想は的中した。思った通り、笑った顔が増えているのだ。
更に凄い事に昨日の時点で笑っていた顔に至っては、消えかけているではないか！

これは確信した。この際だから全部消えるまで毎日続けてみようと思った。
夜、二度ある事は三度ある。この日も鎧武者の夢。
しかしこの日は少し様子が違っていた。鎧武者の両脇にかすかに見える数人の影。

そしていつもの様に「来る！」
『カキィーーーーン！！！』鉛の様に重い一撃を初めて刀で受けた！

私が馴れてきたとかそういうんじゃない、明らかに鎧武者の動きが一日目よりも遅くなっている！とは言え素人が武士にかなう筈もなく、二太刀目であえなく夢から覚めた。

鎧武者と対峙する様になってから4日目の朝。心霊写真の様子はどうだろうか…。
「おお、凄い！右側の半分近くの顔がほぼ消えているではないか！」

…しかし夢とはいえ結構疲れる。それとこの写真と夢は何らかの形で連動していそうだ。
写真の浮遊霊が成仏すると鎧武者が弱くなる？？どういうシステムなのだろうか。

詳しい事は分からないが、このエンドレスな決闘を終わらせるには心霊写真がカギになるのは明白だった。
今日も私はうさぎの冷ややかな視線を浴びながら写真に向かう。
「皆さん成仏して下さいね。南無阿弥陀仏」

ついでと言ってはなんだが、花の画像も合成しておこう。スピリチュアルもデジタル化の時代だろうか……。
ん、でも幽霊とはそもそも“電磁波”だと聞いたことがある。ある意味理にかなっているのかもしれない。

パソコンの先に視線を向けると、うさぎちゃんと目が合う。うさぎは牧草を頬張りもぐもぐと口を動かしながら黙って私を見ていた。
この日、寝る前に私は再び心霊写真を見てみる事にした。どこまで浄化が進んでいるのか気になった。
そろそろ決着をつけたいところだ。

この写真の顔が全て消えたら、武者も消えてくれるんじゃないかと漠然と思っていた。
パソコンを開く。果たして写真は…。
「やった！写真の顔がほぼ全員微笑んでいるではないか！」思わず声に出る私。

きっと今日でこの夢から解放されるに違いない！そんな淡い期待を胸に意気揚々と布団にもぐり込む。

何分経っただろうか…。いつの間にかいつもの夢の中に居た。
キレイな月明り、月は既に満月になっていた。生暖かい風が吹く。鎧武者だ……。武者はゆっくりと歩き出す、昨日よりも更に動きが遅く体が重そうだ。

不思議に思って目を凝らすと、なんと武者の両脇に沢山の“人”がしがみついていて、引きずられながらこちらに向かって来るではないか！！
これにはさすがに驚いた！