かくん電柱

以前通っていた小学校の通学路に、『かくん電柱』と呼ばれる電柱がありました。

この電柱の傍を立ち止まらずに通ると、不思議と足がかくん、となることが多く、重いランドセルを背負いたての1年生なんかは、入学早々この電柱で足を捻挫するという話もよく聞いていました。

だから、電柱の傍を通る時は皆決まって足を止めて足元を確認してから歩く、というなんだか歩行者用の一時停止の標識でもあるような登下校風景になっていました。

ところが、そんなある日。

かくん電柱のところでいつものように1度立ち止まった6年生の子が、かくん電柱とその向かい側の電柱の間に何かが張られているのに気付いて、ちょうど通りがかった1年生を送迎中の母親に報せ、大騒ぎになりました。

そこには、黒く塗られたピアノ線が張られていたからです。

もしかくん電柱のところじゃないところに張られていたら、誰かが足を切断する事件になっていたかもしれないと、PTAや先生たちがしばらく登下校時見守りをしていたのを覚えています。

そして、不思議なことに、その事件以降かくん電柱のところで捻挫をした話はぱったりと聞かれなくなりました。

かくん電柱はピアノ線の事件を見越して注意を呼びかけていたのだろうか、と二十年以上昔のことを思い出す度に不思議な気持ちになります。