行方不明になった友人の話

「マジでなんなんだよこれ」

その後も何度か再生してみるが、今回の動画で分かった事はＡの他に動画を撮影している同伴者が居る事だけだった。
映像的にはＡがその同伴者に気付いてから物凄く怯えている様に見える。
だが、そうなると一本目の動画の段階では恐らくＡは撮影者に気付いていない事になる。
だとすれば、この動画の撮影者はＡにバレずに盗撮していたのだろうか。

こんな場所でいくら考えようが答えに行き着く筈も無いのに、俺は無駄に頭を使っていた。

ただ、一体が誰が何の為にＡの動画を撮影し、俺に送り付けているのか。
それが気になってしょうがなかった。
差出人がＡなのは間違いないが、依然Ａとは連絡が取れないし大学にも来ていないので、Ａに成り代わった誰かが送っているのではと嫌な方向に考えが傾いていく。
最悪なケースは、Ａがスマホを取り上げられており、自分で連絡が出来ない状況に陥っている事だろう。

監禁、誘拐なんかを連想するが、この程度で警察に通報すべきかどうか決めかねている自分がいる。

翌日、俺は大学の事務に赴いてＡと連絡が取れないからＡの実家の連絡先を教えてほしいと訴えた。
しかし、やはり他人に生徒の個人情報を、しかも実家の電話番号を教える事が出来ないと事務員は顔を渋るばかりだったので、俺は「じゃあ、俺の電話番号を教えるんで、向こうから俺に連絡を取ってくれる様に伝えてくれませんか？」と必死に食い下がった。
かれこれ一カ月以上Ａと連絡が取れない事や、何か事件に巻き込まれていればそれこそ警察沙汰になると訴えれば、漸くその形で承諾を得る事が出来た。

ただ、Ａの両親と事務員が連絡を取れたとして、いつ俺のスマホに連絡が来るかは分からない。

その為、Ａの両親からの連絡を待つ間、俺は空いた時間を見つけてはＡが何処の廃墟に行ったのかを特定する作業に没入し始めた。

思い立ったが吉日、俺はＡとのラインの履歴を遡り、何か手掛かりがないかを探し始めた。
Ａはよくオフロードバイクに乗って廃墟の下見を兼ねた遠乗りをしていて、その事を「散歩」と称してよく話してくれた。
つまり、Ａの行動範囲はバイクを前提に考える必要がある。

これまで培ってきた俺とＡのライン履歴はかなりの長さがあるが、そんな膨大な書き込みの中を遡っていると、一枚の写真を行き過ぎた所でスクロールする指が止まり、巻き戻す。

そして、その写真を拡大してみればかなり古い民家を写したものだと分かったが、これこそＡが以前話していた廃屋だった。

年季の入った瓦屋根が特徴的な平屋で、正面の塀から覗く庭は雑草が膝丈まで伸びていて、一目にして誰も手入れしていない空き家だと言う事が見て取れる。
すりガラスの玄関引き戸の横には真紅の郵便受けがついていて、一際視線を引き付けていた。
俺は、この平屋にＡが訪れた可能性は高いと睨んだ。

日当たりの悪さから見るからに陰気で邪気を孕んだ印象だったが、隈なく外観を観察すれば塀の一部に番地が刻まれたプレートが打ち付けられている事に気付いた。
塀の外にも雑草が生えているせいで草がプレートに被って読みづらかったが、画像編集アプリでシャープにすればギリギリ解読できる範囲だったのですぐに解読を始める。

そして、その番地をグーグルで検索すれば某県の片田舎に辿り着いた。

更にその場所をグーグルアースで調べるが、残念ながらグーグルカーはそこまで撮影に入っていないのか最寄り駅はともかく、家の周辺を見る事は叶わなかった。
しかし、航空写真で場所は特定できた。
次に乗換アプリで時刻表を確かめると、俺の家からでも電車やバスを使えば片道２～３時間で着く事も分かった。