奇々怪々 お知らせ

ヒトコワ

ねこじろうさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

ひとりじょうず
長編 2022/09/05 15:28 10,824view
1

「遅くなってごめん。
実はママの体調がよくなくて、今日は会社を休んで看病しているんだ」

「え!じゃあ、明日は中止にしようか?」

「そうだなあ、、、」

その時だった。
悠太とは別の人の声が遠くから聞こえてくる。
それは老いた女性の低く掠れた声だった。

「私だったら大丈夫だって言ってるでしょ
何度言ったら分かるの?」

どうやら、母親が離れたところから怒鳴っているようだ。

再び悠太の声が聞こえてきた。

「ごめん、やっぱり明日、来てくれるかな?
ママが乃亜に会いたいみたいだから」

「うん、じゃあ何時にどこで?」

「いや、明日は一人で来て欲しいんだ」

「え!一人で?」

突然の悠太の依頼に、わたしは驚いた。

「ママが心配だからね、、、
場所はメールで送るから」
そう言って、悠太は一方的に電話を切った。

翌日、悠太からメールで送られてきた地図と説明を頼りに、わたしは午後3時過ぎに車で家を出た。
悠太が母親と住んでいるのは、隣県の郊外にある古い集合団地のようだった。
昭和の終わりに山を切り崩して建てられたであろうその集合団地の姿が山道の右前方から視界に入ってきた時、車内のデジタル時計は、約束の16時になろうとしていた。
太陽は彼方に見える山の端まで降りてきていて、辺りは随分薄暗くなってきている。

敷地内に進入し、縦一列に並ぶ灰色の棟を横目で見ながら、悠太の住む3号棟を探す。
見つけると、団地入口前に車を停め、エンジンを停めた。
右手に目をやると、番号のふられた駐車場が区画されている。
端の方に1台の黒い軽自動車が停まっているだけだ。
アスファルトのあちこちは地割れを起こし隙から雑草が生えているのが、何だか寒々しい。
正面に見える団地入口右手には荒れた集合ポストがある。
その下には子供用の錆びた三輪車が一台倒れていて、風でタイヤが寂しそうにカタカタ回っていた。
どうやらエレベーターは無さそうだ。

3/6
コメント(1)
  • サイコっぽい!

    2023/05/14/10:25

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。