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呪い・祟り

九遠さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

姥捨山
長編 2022/09/02 12:09 41,864view
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祖父の家から歩く事約20分。
辿り着いたのは道路から逸れた脇道の奥、廃屋の様な納屋が点々と並んだ先に見えた小山でした。
あまり高さは感じませんでしたが、それはここが既に山の中に居るようなものだからでしょう。
少しだけ外観を眺めた後、カラッカラに乾いた落ち葉の重なりの上を踏みしめて、僕達は山の入口を進みます。

暫く登山を楽しんだ後、僕はAが何の目的でここに連れてきたのか確かめてみましたが、返事は素っ気ないものでした。

「ここに何があるの?」

「いいからいいから」

先頭を歩くAはその辺で拾った木刀の様な枝で時折蜘蛛の巣を払い除けては、ぐんぐんと奥へ進んでいきます。

やがて、Aのペースに根を上げたBが「兄ちゃん、つかれたー」とぐずり、その場でしゃがみ込んでしまいました。
Bがぐずったのを皮切りにCもしゃがみ込み、もの凄く帰りたそうな視線を僕に向けます。

「お前ら体力ないなー」

Aは棒を肩に担ぐ様な姿勢で少し上の位置から見下ろしていましたが、僕もAのペースにはついていけないので「もうちょっとゆっくり行こうよ」と提案しました。

するとAは少し逡巡した様に顎先を撫でると、足元の落ち葉を足で一通り払ってその場にしゃがみ込みます。
そして、しゃがみ込むなり悠然と語り始めるのです。

「じゃあ、ちょうどいいから話すか」

まるで怪談師が語る口調でねっとりと喋るAでしたが、正直僕達はこんな虫の多い所で話し込むよりは流石に歩きながらの方が幾分かマシかもしれないと思っていました。
ただ、Aはそんな僕達の気持ちに気付くはずもなく、淡々と語り始めます。

「実はさ、親父から聞いた話なんだけど、ここの山、昔は姥捨山だったらしい」

「うばす…?」

Cがたどたどしい口調で聞き返すものの、途中で諦めて首を傾げていました。

Aは「うばすてやまだよ」と軽く再読した後、続けます。

「何か、親父がお前くらいに小さい頃の話みたいなんだけどさ、親の面倒を見れなくなった奴とかがこの山の奥に親を捨てに行ったとか。親父の周りにもそういう奴が居たとか言ってたから、マジっぽくない?」

子供だった当時の僕はいまいち姥捨山の意味を把握しきれませんでしたが、後に調べて見た所、中々にきつい内容だった事から後味の悪い思いをしました。

ただ、この時の僕はAの話を聞いても「それがどうした?」と意図をくみ取れずにいて、Aからは「だから本当だったら何か出そうじゃん?骨とかありそうだし」と、暗にAが僕達を連れて冒険もとい探検がしたかったのだと納得します。

「まあ、とにかくてっぺんまで登って何か居ないか探そうぜ」

そういうとAは立ち上がり、一人だけ楽しそうに歩き始めるのです。

一方で僕達は内心めんどくさい事には変わりないものの、年長者のAが居なければ帰れない様な不安感に襲われて、そそくさとAの後ろに続く様に再び歩き始めました。

内心では文句を吐き捨てながらも、道中、珍しい鳥や昆虫を見ては「わー何これー!」とか「オオクワガタいる!」と僕達は騒ぎ立てており、Aもその都度それがどういう名前の昆虫でどういう生態なのか、まるで昆虫博士の様に僕達に教えてくれたのです。
ある意味で、僕はこれを今年の夏休みの自由研究にしようかとさえ思っていました。

加えて、天蓋が巨木と葉っぱで覆われているせいか全体が日陰となって避暑地の役割を果たしていた事から、僕は夏の暑さからもある程度開放された事に半ば有意義な体験をしたとAに感謝します。

2/9
コメント(5)
  • ちょっと長かったけど読み応えあって面白かったです

    2022/09/02/12:48
  • 埼玉に姥捨山あるって話を思い出した

    2022/09/02/14:55
  • 夢に出そう

    2022/09/04/07:33
  • あばばばばばばばば

    2022/09/16/14:39
  • 長野県に姨捨って地名あるよ…
    ググってみてください

    2024/01/09/11:42

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