来てくれてありがとう

夫と付き合い始めたばかりのころの出来事です。

私は仕事のストレスから体調を崩し、高熱で寝込んでしまいました。
はじめのころは仕事を休んでいる罪悪感と焦りから、治ったらアレをしてコレをしてと頭の中は仕事のことばかり。
しかし、高熱で本当に寝ていることしかできません。次第に頭で考えることもできなくなってきました。
その現状に降参し、「よし、こうなったらとことん休もう！」と気持ち青切り替え、昼も夜もなく眠ることにしました。

昼なのか夜なのか、ある時ふと目が覚めました。
なにやら腰のあたりにまとわりついているものがありました。
腰に手をやっても何も触れず、ただそんな感覚がするだけです。

なんだろうと思いましたが、高熱と寝起きのぼんやりした頭では分かるはずもありません。

嫌な感じや怖い感覚もなかったので、しばらくそのままぼんやりしていました。
すると唐突にハッと思い出しました。

「もしかしたら、彼の子どもかもしれない」

当時付き合い始めたばかりの夫には、以前の彼女との間に、生まれてこれなかった子どもが一人いたのです。
付き合うにあたり、きちんと伝えておこうと思って…と、私に打ち明けてくれていました。
彼にとって人には話したくない事だったと思います。
しかし、そのことを話してくれた彼の誠実さに惹かれ、私はすでに結婚を意識していました。

「もしかして、彼と結婚したいと思った私のところに来てくれたの？じゃあ、今度は彼と私との間に生まれておいで！」

そう思ったとたん、ふっと腰のあたりが軽くなり、感じていた感覚もなくなりました。
私はそのまま再び眠りました。
とことん眠り、4日目には熱もすっかり下がっていました。

この出来事があってから14年が経ちました。
私たちは結婚し、男の子が生まれました。
現在10歳の元気で甘ったれな男の子です。

この子が、あの時の子だったのか、確認するすべはありません。
でも、私はきっとあの子なのだろうと思っています。
私のところに来てくれてありがとう。心からそう思っています。