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不思議体験

ゆゆゆさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

自販機の前の少年
短編 2022/04/05 17:10 1,858view
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私には11歳年上の姉がいる。
姉は学生時代から付き合っている彼氏がおり、卒業して間もなく結婚し今では男児3人の母になった。
その姉の旦那にあたるA君は昔から親戚がらみでの付き合いが多いらしく、姉もまだ恋人同士である当時から年末年始等の食事会に誘われては10人、時には20人あまりの集まりに参加していた。
この話は、そんな2人が結婚してしばらく経った頃にA君が参加したキャンプでの出来事を書き起こしたものである。

その日A君は親戚12人と共に、近くの山へキャンプをしに行っていた。
親戚には子供が多いこともあり、ほぼ毎年夏にはどこかの山へ遊びに行き、2泊3日ほどかけて川遊びや魚釣りをして遊んでいたのだそうだ。
2日目の夜、子供達がジュースを飲みたいと言い出し、ついでに飲み物を買い足しに行こうかとA君を含む男性3人と子供1人が自販機を探しに山を少し降りた。
山を降りると言っても所々に街灯があったためさほど真っ暗というわけではなく、数分も歩けば二つ並んだ自販機を見つけた。
しかし、何か妙である。
該当の下に照らされた機械を遠くから見つけると、その中でもとくに目の良かった親戚の子供が「あれ、なんか、人がいる?」と言った。
目を凝らして見てみれば、ここからでは角度的に見にくくはなっているが、確かに人がいた。

背は自販機に比べてかなり小さく、小学校低学年くらいの子供に見える。
なんとなく顔を上に向けているようで、しかし表情は分からない。
そのまま全員で近寄っていくと、男の子がひとり微動だにもせず無表情で立ち尽くしていた。
親戚の叔父が「お父さんやお母さんは?」と聞いても返事はなく、ただ黙って見上げている。
A君が気を利かせて「上の飲み物が欲しいの?」と尋ねると男の子は小さく頷いて、ある一点を指差した。
後ろでは叔父達がどうしたものかと話し合っているのが微かに聞こえていたが、ポケットに入っていたお金を自販機に入れ、指差した先のボタンを押したあと、出てきたペットボトルを手渡そうとした。
途端、その子はまるで顎が外れたかのように口を大きく開き、差し出された手から直接ペットボトルを咥えるとくるっと振り返りこちらに背を向けた。
一瞬何が起こったか分からず呆然としてしまったが、背後にいた親戚の子供が驚いた声をあげたのをきっかけに我にかえると、そこには四つん這いで山に向かって走る男の子の姿が見える。
慌てて声をかけようとするもうまく言葉にならない。テンパってしまっている頭を必死に回転させている間に、少年の姿は街灯以外の明かりがない山道へあっという間に消えてしまった。

それからは皆がいる場所まで急いで戻り、ことの次第を伝えるが、なかなか信じてもらうことができず。急いで警察に電話をしようとしたところで叔父のスマートフォンが鳴った。
「はい、もしもし」

叔父が電話に出るのをそわそわしながら見つめていたが、その表情が訝しげなものから段々と青ざめていくのが分かった。
話終わると叔父が一言、大丈夫らしい、と。
どうやらキャンプに来ていない叔母からの電話だったようで、先ほどの子供のことを狐だと言っているようなのだ。
この叔母というのはA君の知るなかで一番の霊感の持ち主であり、ことあるごとに助言をしてくれる人物である。
とにかく、その叔母からの電話で「先ほどの自販機の前にいた少年は狐で人間ではないから関わるな」と言われたそうである。
もちろん、誰も叔母には連絡などしていない。
話を聞き終わった全員は顔を青ざめながら、しばらく声を出すことも出来ず立ちすくんでいた。

その後、いくら叔母からの電話があったとはいえ大人含む数名で目撃してしまったからにはどうするべきかと話し合った結果、翌朝に男性陣全員で付近を捜索することにした。
早朝、大人たちが全員起きたところで捜索は始まり、夕方近くまで探しまわっていたそうだが、キャンプの痕跡どころか自分達以外の誰かが付近にいたような跡は何も見つからなかったとのことだ。
あの男の子は一体なんだったのか。
強烈な出来事であったため、いまだにその時のことを鮮明に覚えているとA君は私に話してくれた。
以来、その山に親戚で行くことはなくなり、毎年恒例のキャンプも今では少し離れたところへ遊びに行っているそうだ。

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