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不思議体験

深幸〜みゆき〜深淵を覗くさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

青い服の男の子
長編 2021/01/18 10:16 5,453view

「お母さん、男の子なんかおらんかったよ」
次男が静かに告げると、私達のテーブルだけ時が止まったかのように一瞬静まりました。次男が何を言ってるのか、私には解りませんでした。
「あ、三人とも食べるのに夢中で気付いてなかった?
いや、私も最初は気付いてなかったけど、途中で視線を感じて見たら、背もたれの間から覗いてて可愛いくてさ〜お利口さんだなと思って、手ぇ振ったりしてたのよ」
と私が言うと、主人が
「うん。
ママは誰に手を振ってるんだろう、と思ってた」
「お母さん、男の子なんか、お・ら・ん。
おらんかったよ。
今、ゆかりにLINEで訊いたけど、二人だったって」
と長男がゆかりちゃんとのLINEのやりとりの画面を差し出し見せてくれましたが、それでもまだ私は信じられず、慌てて立ち上がって周りを見渡し、あの男の子の姿を探しましたが、あの可愛い顔も印象的な青い服も見当たりません。もしかしたら、他のお客さんの子供さんがイタズラでゆかりちゃんの隣の椅子に座ってたのかも?との仮定を伝えても、ゆかりちゃん達の後にはまだ誰もキャッシャーに向かっていません。長男がゆかりちゃんへのLINEを打ち込んでいる間に、主人と次男は店内だけでなく、トイレや駐車場もそれとなく見て戻ってきましたが、男女問わずそれらしい年頃のこどもも、青い服も見当たらないとのこと。
「返信きた。
ゆかりちゃんの隣の椅子には誰も来なかったって。
テーブルのお皿やお箸の数も、レシートの客数も二人で印字されてるって、写真も添付されてる。

お母さん、今度はなにを視た?」
そうなんです。私はこれまでにも、いろいろと不思議な体験をしており、都度、家族にも伝えていましたが、今回ばかりはこんなにはっきり、あんなに可愛い子が存在しないなどと思うと、どうしても腑に落ちない、何故…。

後日、私は長男と二人でこのお店にやってきました。相変わらず、眺めもお味もお店の雰囲気も良く繁盛しているので、予め席を取って希望コースを予約しておきました。
案内された席は、この前、ゆかりちゃん母娘が座っていたテーブルで、眺めが抜群に気持ち良い席です。食べ進めているところへ、ウェイターさんが
「お伺い致します」
と来られ、長男と顔を見合わせました。私達は呼び鈴も鳴らしてませんし、呼んでいないのです。
「こどもさんが…」
とウェイターさんは私達親子を交互に見つめ、首をかしげながら戻って行かれました。
「青い服の男の子、今日もいる?」
と長男が口を開いた瞬間、私と長男の間にある呼び鈴が音をたて、ウェイターさんと目が合いました。
「すみません、早いのですが計算をお願いします」
にこやかに伝えました。
キャッシャーには店長さんが立っておられ
「なにか失礼がございましたでしょうか?

ごゆっくりお過ごしいただけましたでしょうか?」
と支払いの前に声を掛けてくださいました。顔を見合わせる私達親子に、更に声を掛けてくださいます。
「お母さん、ちょっとだけ話したら?」
と長男に促され、店長さんからも目で促されます。
「実は先日、こんなことがありました。〜中略〜
けど、暗い感じとか嫌な感じとかは本当に全然なくて、むしろ今日もすごく素敵なお席をご準備いただいたのに、この後急用が出来てしまって(これは嘘も方便)すみません。
ありがとうございました、また使わせていただきます」
とだけ、手短に伝えました。
「それ、他のお客様からも言われたことがあります。座敷童子がいるから大事にしなさい、って。
服の色も一緒で、男の子の感じも前にも言われたのと似てます。
実は、オープンしてすぐの頃、僕が夜中に一人で計算とかしてるときにも呼び鈴が鳴ったことがあるんで、業者さんに検査に入ってもらったりしたけど何にもなかったんです。
で、疲れてたのかなと思って済ませたんですけど、次の月もまたあったんです、それも僕が計算に使ってるテーブルで…それが、今日、お客様をご案内したテーブルなんですけど、僕も気持ち悪いとか怖いとかはなくて、イタズラしたいんだろうなと思って。
それで、あのテーブルだけささやかながら傍に花を置くようにしたんです」
振り返って見ると、明るい彩りの花弁が空調の柔らかい風に楽しそうに誇らしげに、まるで笑っているようでした。

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