保育園での「おいでおいで」

私は保育園に通っていたときの記憶はほとんどありません。親から「こうだったよ」とか言われるんですけど、ほとんど覚えていないし、要所要所での強い記憶しかありません。そんな私でも覚えている記憶があるのです。

母に保母さんの知り合いがいて、その知り合いから母が伝え聞いた話なのですが、私は当時保育園の砂場で遊ぶのが好きな子供だったらしいです。そして友達や保母さんが一緒に遊んでくれていました。そしたらいつも私が言うんですって。「おいでおいでされた」って。

最初は保母さんたちも友達か先生がおいでおいでしていたのかと勘違いしていたみたいです。でも私がいつも砂場でトンネルを作った後に必ず「おいでおいでされた」と毎回いうので、不思議に思って一人の保母さんが「誰にされたの？」て私に聞いたんですって。そしたら「知らない人」って言ったんだそうです。周りの子たちも「わたしも」「僕も」と口々に言って、保育園はちょっとした騒動になりました。

その場にいたのはいつも少人数の保母さんだけで。「知らない人」なんて存在しません。母はその話を聞いてぞっとしたそうです。

そして私は保育園の記憶で一つだけ強く覚えていることがあります。赤土でトンネルを作ったその穴から覗く顔とおいでおいでする手なんです。しかも普通にトンネルから顔を覗かせるのではなく、穴に顔をすっぽりうずめてる姿が脳裏のこびりついています。私が見たこの記憶はこの保育園であった騒動のおそらく一致するのでしょう。だとしたら私たちが保育園で見ていたものは一体何だったのかと心底恐ろしくなりました。