何度も何度も開け閉めされるクローゼット

あれは私が介護施設で働いていた時のことです。

夜も更け、ご高齢の利用者さんはみんな寝てしまい、施設内は静まり返っていました。
ここの介護施設の夜勤は一人体制でしたので、私は静かに事務作業をしていました。

その時です。
遠くの方からクローゼットが開いたり閉じたりする音が聞こえてきました。
誰かが起きてクローゼットを触っているのだろうかと思いましたが、それにしては何度も何度も繰り返されていました。

私は不思議に思い、その音の方へと懐中電灯を片手にゆっくりとあゆみを進めました。
あゆみを進めるうちに、音は近く大きくなっていきます。

そしてついに、その音が出ている部屋の前へとたどり着きました。
そう、そこは数日前に利用者さんが亡くなった部屋だったのです。
今は新しい方が部屋に入ってらっしゃいますが、その方はもう寝たきりで、自分でクローゼットを開けるなんて出来る訳がありません。

私は恐る恐る部屋のドアを開けました。
すると音はピタリと止まり、寝たきりである今の部屋の主がベッドに寝ているだけです。
もちろんクローゼットが開いた形跡もありませんし、中が触られた形跡も一切ありませんでした。

多分、故人が自分の荷物を片付けに来たんだと思います。
亡くなったその方は、とてもしっかりとした方でしたので…。