廃神社に巣食うもの

「ここはやべえ、早く逃げるぞ！」
「なんだよ、まだ撮ってねえのに」

口を尖らせてぼやく仲間を車に押し込んで山道を飛ばす最中、フロントガラス越しの空に逆さ鳥居が覆いかぶさりました。俺たちを追い詰めて生贄にする魂胆です。そうはさせまいと運転席の俺が体重をかけアクセルを踏み込んだ瞬間、世界がひっくり返しました。

目を開けると病院のベットに寝ており、同じく重傷の同行者が心配そうに覗き込んでいました。俺が運転する車は帰り道で派手にスリップし、ガードレールに激突したそうです。
肝試し帰りのユーチューバーが山道で事故った件は小さなネットニュースになりました。コメント欄には「自業自得」「ざまあ」「天罰」の声があふれています。
匿名の中傷にも増して俺をうちのめしたのはニュース記事に添えられた事故現場の写真でした。車が直撃したガードレールとそのポールはねじ曲がり、逆さ鳥居そっくりに変形していたのです。

その後俺の怪我は回復したものの、鳥居のトゲが刺さった親指は雑菌が入って腫れ上がり、三日三晩高熱にうなされました。退院後に情報提供者の女子高生に連絡をとろうとしましたが、今だに彼女の返事は来ません。

これはただの偶然かもしれませんが……情報提供者のハンドルネームは、廃神社がある山に遺棄されたバラバラ殺人被害者の女子高生と同じでした。