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としこさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

帰ってくる音
短編 2022/01/17 19:00 1,191view
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私が以前住んでいたアパートの話です。
よくある2階建ての安アパートで、私は角部屋に住んでいました。
お隣の部屋には小綺麗な女性が住んでいて、朝出勤する時など顔を合わせることも多々ありました。
服装から、銀行の窓口とかやってらしたんだと思います。
私は仕事が終わって直帰すると大体5時半くらいに自宅に着きます。
部屋でゴロゴロしていると、7時前くらいにお隣さんが帰ってきた音がするんです。
安アパートなのでお隣さんや上の階の物音がするということは結構ありましたが、玄関のドアは特別、音が筒抜けでした。
お隣さんのハイヒールの音と、ドアを開け閉めする音が聞こえていました。
カッカッカッカッカ、ガチャ、バタン。といった感じで。
音がするというだけで別段、意識はしていませんでした。
お隣さんが帰ってくる音が聞こえる、というだけのことが続いていたんです。それはただの日常の一部でした。

ある日、引っ越し業者のような格好の人たちがお隣さんの部屋から家具やダンボールを運び出していました。

お隣さん引っ越すのかな?と(失礼ではありますが)まじまじ見ていると見知らぬ男性が話しかけてきました。
おじさんとおじいさんの間くらいの方で、少し疲れた表情をしていました。
「お騒がせしてすいません」
「いえいえ、お隣さん引っ越されるんですか?」
「ええ…うちの娘が住んでたんですが、一週間前に事故で他界しまして…」
思わず「えっ」という声が出ました。
何故ならお隣さんが帰ってくる音はつい昨日の夜まで聞こえていたからです。
いつもの、「カッカッカッカッカ、ガチャ、バタン」という音が変わらず聞こえていたんです。
私が言葉に詰まっていると、おじさんはお騒がせしているお詫びに、と菓子折りの入った紙袋を渡してきました。
私はすっかり頭が混乱してしまい、「あの、その、ご愁傷様です」としどろもどろな返事をすると、おじさんは軽く頭を下げて業者のところに戻っていきました。
業者がすべての荷物を運び出し、隣の部屋がすっかりからっぽになって施錠されると、その日から「お隣さんが帰ってくる音」は聞こえなくなりました。
おじさんからいただいた焼き菓子の詰め合わせを食べて落ち着くと、「自分が死んだことに気付かない人って本当にいるんだなー」などとのんきに考えていました。

元々幽霊に対しては半信半疑でしたし、いたとしてもお隣さんは優しい雰囲気の方だったのであまり怖いとは感じませんでした。

それからしばらくして、お隣に新しい住人が引っ越してきました。
若い男性の方で、朝、顔を合わせても挨拶を返さないタイプの人だったので不愛想な人だなーと思っていました。
男性の入居からひと月ほど経ち、いつものように出勤時間に顔を合わせましたがどうせ挨拶返してくれないだろうなーとお互い会釈も無しにすれ違おうとした時に、男性から話しかけられました。
「あの、すいません」
「は、はい?」←話しかけられると思ってなかったのでキョドる
「俺が住んでる部屋って、過去に何かありました?」
深刻な顔でそう尋ねる男性に、一瞬事実を隠そうかとも思いましたが(本人が不安になると思ったため)、いずれわかることだろう、別に部屋で亡くなったわけでもないしと思い直し、足音のことは伏せて、お隣さんが事故で亡くなったということを伝えました。
すると男性は「そうですか…」と暗い声で言ったきり押し黙ってしまいました。
「何かあったんですか?」とか聞けばよかったんですが、あまりにも男性が深刻そうな顔をしているので、何も聞けませんでした。
その後すぐ男性は退去したのでそれっきりです。
私自身も転職のため他県に引っ越したのでアパートのその後はわかりません。
ふと、お隣さんは今もあの部屋にいるのかな、と考えてしまいます。

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