消えた先生

私たちは先生にからかわれているのだろうと最初は思ったのですが、先生はとても不思議そうな顔をしていました。そして、先生の普段の性格からして、そんなふうに生徒をからかうわけはない、ということにも気が付きました。

先生も私もAちゃんも、いったいどうなっているのかと腑に落ちないまま、授業が始まってしまうのでその場は解散になりました。

怪談話によくありがちな、実はH先生が存在していなかったとか、そんなことは決してありません。卒業してから他の同級生にH先生の話をしてもきちんと覚えていましたし、他の先生とH先生が話しているところを見たことだってあります。

しかし、そのできごと以降、H先生の思い出がすっぽり記憶から消えています。プールの時間にいっしょに遊んでもらったり、担任が急用で自習になったときH先生が代わりに教室にやってきたこともありますし、調理実習で作った料理を食べてもらったこともあります。でもそれは、どう考えても4年生くらいまでの記憶なのです。

いつの間にかH先生は異動になってしまい他の学校に行ってしまいましたが、それがいつだったのかまったく記憶にありません。先生が異動になったら、朝礼の際に全員の前で発表されます。しかしH先生の異動の発表の記憶はなく、いつの間にかいなくなっていたのです。

このできごとがいったい何だったのか、20年以上経つ今でも不思議でなりません。