木の上に居たモノ

蛇に睨まれたカエルの様に私は固まり動けないまま恐らく十数秒回であったであろうその時間は何分にも感じられました。
無意識に呼吸は止めていたと思います。
瞬きすら出来ず私はそれを真っ直ぐ見つめただ固まっていました。

しばらく私を見下ろしていたその生き物は私に興味を無くしたのか、スッと視線を外し跳ぶ様に木々を移動して私の視界から消えていきました。

アレは一体何だったのでしょうか。
今でも不思議に思いますし、あの瞬間が私の人生で一番恐ろしかった時です。
親に泣きながら話しても信じてもらえず、道場も辞められずその後も何年も通い続けましたが、アレを見たのはその時が最初で最後でした。

確かな事はアレが幽霊などでは無く生きた何かであったという事です。

恐怖から見えた幻覚などではなく、確かにあの夜そこには何かが居たのです。