梨が好きだった祖母と梨が嫌いだった姉

姉は子どもの頃から色白で痩せていて、霊感が強い人でした。社会人になり祖母が亡くなった通夜での出来事です。

すっかり秋めいて肌寒くなり、親族と喪服だけでは寒いねなどと言いいながら祖母の思い出話しをしていた時、急に隣の部屋から母が「出て！出なさい！」という声が聞えました。驚いた私たちはその部屋に行ってみると、母が姉の背中を力一杯叩いているのです。驚いた私たちは止めに入り、どうしたのかと聞くと経緯はこうでした。

母が親族にお茶を出そうとキッチンに行くと、姉が冷蔵庫の中の食材を一心不乱に投げ出しており、「梨が食べたい梨が食べたい」と泣いていたそうです。それを見た瞬間、母は「亡くなった祖母が姉の中に入っている」と直感し、背中を叩いたのだと言うことでした。梨が大好きな祖母でした。そして姉はその逆で梨が大嫌いなのです。その姉が「梨が食べたい」と切望し泣いているこの状況は、私たちの目から見ても明らかにおかしいと感じました。

しかし、その後も姉は泣き続けました。母はどうすればよいか分からず根負けして梨の皮をむき、差し出しました。すると泣きながらひとつ食べ、ふたつ食べ…すっと表情が変わりました。そして姉が一言、「え、何で梨食べてんの？」と言った時、私たちはようやく祖母が満足してくれたのだと感じ、胸を撫で下ろしました。この世の好物を最後に食べたかったのでしょう。世界は不思議なことがたくさんあるんだなと思った夜でした。