悲しき自動販売機

その後、試しに自分でミネラルウォーターのボタンを押してみた。

ジュースだ。

隣は缶コーヒーだ。

「自分のときだけどうして？ミネラルウォーターは？水は？」

後日ビルのオーナーにその話をすると、大きなため息をついてこう話し始めた。

「古い話になるけど、実はこの辺りは関東大震災のとき被害が一番ひどくて焼野原になったんよ。特にこの自動販売機が置いてある場所は当時井戸があった所らしくてね。焼け爛れた人たちが水を求めてこの井戸に飛び込んで死んでいったんだとか。もうその光景は地獄絵で焼け死んだ人が幾重にも重なって井戸が死体で溢れたらしいんよ。水、水、水と言いながら死んでったって。そんな話を聞いたことがあるんよ」

「泥水だろうが、血に染まった水だろうが極限状態の人間にとっては生きる望みだったんだろうね」

ミステリーとは実は悲しい歴史を投影しているものなのかもしれない。

今年2023年は関東大震災からちょうど100年目を迎える。