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妖怪・風習・伝奇

信綱さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

カワワラシ
長編 2022/08/13 14:35 29,914view
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もう今から40年以上も昔、時代が昭和だった頃の遠い夏のこと。

俺のじいちゃんは東京の出身で、子どもの頃は夏休みなんかになると、じいちゃんの東京の実家によく遊びに行っていた。

東京と聞くと、果てしなく高いビルが立ち並び、多くの人々が行き交う大都会を想像されるかもしれない。

けどじいちゃんの地元は東京の外れの外れ、いわゆる「奥多摩」地域の山間にポツリとある小さな集落。
背の高い原生の木々が鬱蒼と生い茂り、どこか閉塞的な雰囲気さえ漂う、人の少ない物寂しい田舎だった。

俺は子供時代にそこを訪れると、よく地元の子供たちに混ざって川遊びをしたり、山に入って虫取りや探検ごっこをして過ごしていたのを覚えてる。

そんな奥多摩での懐かしい思い出で、今でも忘れられないというか、色濃く記憶に残っている体験がある。

それは小学校6年生のことだった。

当時の俺は中学の先輩の影響で、かなり魚釣りに凝っていた。
奥多摩に行ったときも、地元のちびっ子連中との外遊びもそこそこに、自分一人で釣りに出るようなことが何回かあった。

ちょうど思春期に差し掛かった時期だったし、虫取りとか探検みたいな子どもっぽい遊びが、なんとなくつまらなく感じるようになっていたんだと思う。

8月の中旬、お盆を少し過ぎたあたりの頃だろうか。

その日は渓流釣りでもしてみようと、まだ日が昇りきっていない早朝から、自前の釣り道具一式を持って山奥の沢まで行っていた。

不思議と魚がいっぱい釣れこともあって、俺は完全に時間を忘れて没頭していた。

ひたすら釣りを続けていると、あっという間に時刻はお昼に。
来た当初は辺りは薄暗く、やや肌寒さも感じるくらいだったが、気づけば太陽は一番高くなり、暑さでぽたぽたと汗が垂れるくらいになった。

さすがに集中と体力が切れた俺は、一度家に戻って休憩しようと考えた。
朝からロクに食べていなかったので、もうお腹もペコペコだった。

おにぎりか何か持ってくれば良かったなあ。
なんて取り留めのないことを考えながら、道具をまとめて一人で来た道を帰っていった。

山道をトテトテと降りていると、ふと道の端の草むらに、なにかボロ切れのような物が落ちているのに気づく。

近寄って見ると、それは古ぼけた黒地の着物だった。

かなりの年季が入ったものらしく、ところどころが破れかかっているし、全体的に薄汚れていた。着丈もかなり短く、どうも小さな子供が着るもののように思えた。

なんだこれ?誰かの落し物か?
不思議に思い周辺を見渡すと、少し離れたところには一足の下駄が乱雑に散らばっていた。

さらに離れたところには、これまたボロボロの帯紐、真っ黒な腹掛け、巾着(?)のような小包。
どんどんと草むらの向こう、雑木林の方へ続いているようだった。

気になった俺は、その落し物を辿るようにして奥へ奥へと歩いていった。

そして雑木林も抜けると、少し急流の川辺に出た。
辺りを見やると、なにか小さな人影が川でぴょこぴょこ動いているのが分かった。

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コメント(4)
  • めちゃ面白かったです
    奥多摩あたりは神秘的で本当に何かありそうな場所ですよね

    2022/08/14/09:15
  • ワラシちゃん可愛い

    2022/08/19/21:39
  • 蹴り入れられたのに気に入られるのか…Mっ気があるのかな

    2022/10/19/16:09
  • おじいちゃんが山で作業中に急死ということは・・・。

    2023/07/24/00:27

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