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呪い・祟り

神威さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

ムロで見てしまったもの
長編 2022/06/08 20:49 17,719view
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曾祖父がどこかに出かけたきり行方知れずになった、という話を伝え聞いたのはそれから数日後のことでした。母が祖父母と電話で話しているのを見かけたのですが、母の受け答えから、曾祖父が数日前に出かけて行ったこと。隣町の山中にある、曾祖父の持っている寺院のような施設に出かけて行ったとばかり思っていたのに、数日間何の音沙汰もないこと。警察に相談して失踪届を出す準備をしていること。そんなふうなことを云っていました。

曾祖父のことはそれきり家族の話題に上らなくなりました。私としてはもう二度と近づきたくなかったのですが、なにかの折に母方の祖父母宅にもう一度家族とともに行ったときには、ムロのドアがあったところは塗り固められてすっかり壁になっていました。

私が中学を出るときには、あるじが行方知れずとなったあのお堂や山中の寺院はまだ放置されていたように記憶します。その後、実家を遠く離れた高校の寮に住まうようになり、さらに都内の大学に進学、両親と大喧嘩の末、結婚してからずっと関東に住んでいるので、それからどうなったのかは私にはまったくわかりません。

長い年月のうちにこの出来事が私のなかで風化してきて、ふと、酒場で怖い話としてひとに話したことがあります。そのときに、怪談好きの酔客がいて、こんなふうなことを云って私をぞっとさせたものです。

いわく、曾祖父がやっていたことは或る種の呪いである。生まれてこられず死んでいった兄を想うあまり、次に生まれてきた私を実は疎ましく思っていて、呪術を使って兄のミタマを呼び戻そうとしていたのではないか。そして、私のミタマ(魂のようなものでしょうか)を鏡のなかに封印する代わりに、兄のミタマを鏡の向こうから現世に呼び戻して私の体に入れようとしていたのではないか。その酔客いわく、鏡は霊道というこの世とあの世の通り道をつくる道具だと云うのです。

「人を呪わば穴二つ」と云うことばがあります。相手を呪い、死を願う者は、呪っていた相手に企てが露見するなど術に失敗すると、「呪い返し」と云って自ら呪われることになります。曾祖父は、密かに呪っていた相手である私にムロで行っていた術を見られることで呪いに失敗して、逆に呪われる身となった。兄が曾祖父を連れて行ったのだろう、と云うことでした。

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コメント(10)
  • これは読ませますね
    すばらしい

    2022/06/08/22:25
  • お兄さんが助けてくれたのかもしれませんね

    2022/06/10/04:54
  • プロかな?描写がうますぎて引き込まれた
    他の投稿者さんとはレベルが違う

    2022/06/28/18:25
  • 北海道、道東出身です
    うちにもムロと呼ばれる地下室ありました
    うちの場合は狭くて人が入れるような場所ではなかったのでもっぱら漬物やお酒を保存していただだけですが…
    想像できてしまって怖かったです

    2022/06/29/12:28
  • 久しぶりに読みごたえのある作品と出会えました。語彙の用い方や表現法に若干未熟さは感じられなくもないのですが、それらが微細なことのように感じられるほど、導入からラストまで一気に引き込まれる作品でした。

    2022/07/01/20:49
  • 面白かったです。ただ、亡くなった子の次に生まれて来てくれた子を疎ましく思う事は考えにくいので、もう少し工夫があってもいいかな

    2022/08/25/17:32
  • 文章、言葉遣いにとても惹き込まれました。
    しっとりとしていて、想像力をかきたてられるお話でした。
    人間は愛すら歪ませる生き物ですから、曾祖父が投稿者さんを疎んでいたかはさておき、どこかで道を逸れてしまったのかも知れませんね。

    2023/06/29/21:49
  • 死んだ兄の魂を憑依させたら、兄の思い(恨み?)の強さに曽祖父が憑かれてしまった。。。とか?

    2023/09/15/14:32
  • 最初的に自己責任系?

    2023/10/19/13:06
  • ムロツヨシ?

    2023/11/11/11:53

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