釣りで注意したいこと

私の父は釣りが趣味で休みとなれば釣り道具持参で海や渓流にでかけていきました。
幼い私も決まって付いていき、父が釣りをしている間はそばで見守ったり、少し離れた場所で遊んだりしていました。

その日父が出かけたのは隣の県の渓流でした。

「あんまり遠くへ行くなよ」
「はあい」

父が釣り糸をたらしている間、暇を持て余した私は探検を思い立ち、渓流を遡ってみました。

川伝いに岩場を登っている時、岩の合間にきらきら光る何かを見付けました。なんだろうと思って拾い上げた所、青銀の鱗の小魚を模した綺麗なルアーでした。

当時の私は落とし物をコレクションするのが趣味だったので、道すがら手に入れたルアーをポケットにしまったのですが……。

帰り道、ポケットの中で何かが動いてるのに気付きました。ハッとして手を突っ込むと、てのひらの上でルアーがぴちぴち跳ねていました。

目を疑ってまじまじ観察した所、ルアーは私の手からはねてぽちゃんと川に飛び込みました。

「待って！」
「返してもらうよ」

ルアーを追って駆け出した私の鼻先に、釣り竿を持った男性が現れて一言呟きました。
ぽかんとする私の眼前で、その男性は川へ入って沈んでしまいました。勿論父に言っても信じてくれません。

私が見たのは渓流で水難事故に遭った釣り人の幽霊だったのでしょうか。