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呪い・祟り

誠二さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

濡れ仏に彼岸花を
長編 2022/01/30 22:50 3,969view
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俺は東北の寒村で幼少期を過ごしました。
小5の頃に父の仕事の都合で仙台に引っ越したのですが、それまでは田んぼと畑と山しかないド田舎で子ども時代を過ごしたのです。
村は子どもの数こそ少ないものの、だからこそ皆団結し、夏休みともなれば毎日探検だの川遊びだの走り回っていました。
そして村の子どもたちには、物心付いた頃に大人にキツく言い聞かされる禁忌がありました。

村の外れに三体存在する濡れ仏に赤い彼岸花をそなえてはいけない、というのがその内容でした。
濡れ仏とは屋外に建てられた石仏をさします。雨風にさらされ濡れるから、というのが由来でしょうか。
好奇心旺盛な悪ガキたちが何故ダメなのか聞いても大人は言葉を濁すばかりで、ハッキリとは教えてくれません。
大人たちは濡れ仏を忌み嫌い避けており、その三体がたたずむ荒れ寺の境内には決して近付かないのです。

小4の時、俺は仲良しの友達3・4人と肝試しを決行しました。大人たちが理由も話さず何故か禁じている、濡れ仏参りをすることにしたのです。
ちょうど田んぼの脇に不吉なほど真っ赤な彼岸花が咲き誇っており、皆それぞれむしって手に持ちました。

時刻は学校が終わった夕暮れ、血のような夕焼けが西空を染めています。
一列に並んで畦道を歩き、山の麓の荒れ寺に到着した俺たちは、境内の隅濡れ仏のもとへ急ぎました。

濡れ仏は一体一体微妙に顔が違い、真ん中が男、両端が女に見えました。余程古いものみたいで苔むし、殆ど崩れかけています。
俺たちは内心びびりながらも濡れ仏に赤い彼岸花を手向け、神妙に手を合わせました。

「何も起こんなかったな」
「拍子抜けだな」

帰り道、そんなことを喋ってイキがっていたのを覚えています。
ところが翌日……村の誰かが濡れ仏のお供え物を見たのでしょうか、分校の担任に申し渡されました。

「村はずれのお寺の濡れ仏に彼岸花をあげた人、即刻名乗りでなさい」

当然誰も名乗りでないし手も挙げません。仲間を売り渡すのは言語道断です。担任は何度も繰り返し自白を促しますが、生徒たちの反応がないと見るや、廊下で待機していた村の大人たちと小声で相談を始めました。

俺たちの知らない所で何かとんでもないことが起きている。濡れ仏に彼岸花を手向けてはいけなかったんじゃないか。

今さらながら後ろめたさと恐怖に苛まれ震えていると、一際怖い顔をした村長が教室に殴り込んで、荒れ寺の濡れ仏の謂れを話してくれました。

今から三百年前、あの寺には美貌の僧侶がいました。この僧侶に二人の村娘が懸想します。まだ若く煩悩を捨てきれなかった僧侶はどちらとも関係を持ち、美しい彼岸花を捧げました。
しかし二股が長続きするわけもなく、やがて村娘たちにばれてしまいます。
時同じくして村を飢饉が襲い、村人たちは木の皮を剥ぎ、根まで掘り起こして食らいました。
境内で花を育てていた僧侶は、情を交わした娘二人のうち、どちらに非常食の彼岸花を渡すか迫られます。
村の土地は日照りで痩せており、境内に咲いた一本の彼岸花だけが最後の糧となった状況の中……結局僧侶はどちらも選べず、または自分の命が惜しくなったか、彼岸花を一人で食べてしまいました。

最愛の男に裏切られた村娘ふたりは発狂し、遂には共謀して僧侶の肉を食らったのち、首を吊ってしまったそうです。

「あの濡れ仏は三人の供養の為に建てたものじゃ。彼岸花をお供えを禁じとったのは、過去の凄惨な歴史が甦るからじゃよ」

教室中を見回した村長は「犯人は名乗りでなさい。万一に備えてお祓いをするから」と言いました。
すると諦めたように一人また一人と立ち上がり、俺を除く全員が教壇の前に出頭し、村長とでていきました。俺は意気地のない自分を呪い、恥ずかしさに俯きました。

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