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意味怖(意味がわかると怖い話)

綿貫 一さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

深夜の乗客
短編 2024/04/08 09:34 3,172view
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Aさんはすっかり力が抜けてしまった。少しでも怖がっていた先ほどまで自分が、馬鹿馬鹿しく思えた。

おおかた、この女は、飲み会で深酒をして、酔い覚ましに少し歩くつもりが、うっかり霊園に迷い込んだんだろう。
そして、たまたま通りかかったこのタクシーに手を挙げた。
それが証拠に、女の告げた行き先は、乗り込んだ場所からそれほど離れてはいなかった。

ほどなくして、目的地に到着した。

Aさんは、後部座席に向かって声をかけた。

「お客さん、着きましたよ――」

返事がない。

やれやれ、これだから酔っ払いは。そう思いながら、Aさんはバックミラーを覗きこんだ。

鏡の中に、女の姿はなかった。

「――えっ?」

(さっきまで、そこに座っていたはずなのに!)

一気に血の気がひいた。これでは、『あの』怪談話と同じ展開じゃないか。
客の姿が消え、後部座席には濡れた跡が――。

Aさんは慌てて振り返った。

そこで、彼が見たもの。それは――、

――なんのことはない。女は車の揺れに体勢を崩し、後部座席に横になって眠りこけていたのだった。

またまた一瞬だが肝を冷やした自分が恥ずかしくなり、それをごまかすため、少し怒気を含んだ声で女に呼びかける。

「ちょっと、お客さん。着きましたって。起きてください」

その声に女は目を覚まし、「ああ……、はいはい……」などとつぶやきながら、料金を支払った。

ところが、そこでゼンマイが切れてしまったかのように前のめりになり、再び寝始めてしまった。

(ったく、しょうがねえなあ――)

いくら呼びかけても起きない客にしびれをきらし、Aさんは車を降りて回り込むと、後部座席のドアを開けてやった。

幸いだったのは、先ほどまで降っていた雨が、すでに止んでいたことだ。おかげで濡れずにすんだ。

外から女に呼びかける。

「ほら、降りてください。忘れ物はしないでくださいよ」

「ふわあ」と、あくびだか返事だかわからない声を上げてから、女はのそのそと降りてきた。

そして、ふわふわと浮ついた足取りのまま、住宅街へと消えていった。

(やれやれ……)

その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、ひとつ大きなため息をつくと、Aさんは車に乗り込んだ。

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コメント(4)
  • オチがいい。面白かったです。

    2024/04/08/12:01
  • 綿貫です。
    おあとがよろしいようで。

    2024/04/08/14:10
  • たましい忘れてますよーww

    2024/05/09/16:53
  • いや、からだを忘れていったのでは?

    2024/05/12/19:45

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