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妖怪・風習・伝奇

寇さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

山でヘンテコな鳴き声の生物に襲われた話
長編 2023/03/05 12:01 9,285view
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開いたままの建付けの悪そうな木製のドア。
見慣れた小屋がそこにある。

そして、俺が踵を返そうと後退りした時、ガササササと一気に距離を詰めるように昨日見た変な生物が飛び出してくると俺の周りを囲む。
体を「く」の字にうねうねさせながら、土竜みたいな口を開口して、何やら仲間同士で『ガウ』とか『ゲギャ』みたいな変な鳴き声で会話してるみたいだったけど、俺はもう腰が抜けてその場に座り込んでた。

そしたらそいつらの中の一人が胸元の腕を伸ばして俺の髪の毛を掴むと、小屋まで引き摺った。
禿げる程痛くて「いたい!やめて!たすけて!」って叫んだけど、そいつらは仲間うちで鳴き声で会話するだけで、俺に見向きもしなかった。
小屋の中に変わったものはなかった。
中心に囲炉裏みたいなものが設置されてて、大きめの鍋がぶら下がってた。
それを見た瞬間、(え、俺のこと食うの?)って震えたが、俺の髪の毛を掴んでた生物は小屋の中に俺を連れ込むと隅のほうへ乱雑に放った。
「ぎゃっ」と背中からぶつかったせいか変な声が出てのたうち回る。
すぐに体を起こそうとすると、生物が二人掛かりで俺の片手と片足を押さえつけて『クゥクゥクゥ』と何か合図を送るように鳴いた。

俺は必死に体をよじって抵抗するが、次の瞬間、左腕に激痛が走った。

「ああああああああああ!」と叫ぶと同時に腕を折られた事を悟った。
続けざまにゴキゴキッって音が聞こえると左脚から全身に激痛が走った。
足も折られたぽかった。

もう絶対に殺されると思った俺は最後に思い切り「だれかあああああああああ!」と絶叫したんだけど、その時、目の前に変な生物が棒状のものをちょうど振り上げている瞬間が目に飛び込んできて、「あ」と声が漏れたと同時に暗転した。

死んだと思った。

でもなんか、気が付くと風が吹いてるのか木々が揺れる爽やかな音が耳に届いて、目を開けると木漏れ日と空に透けた木が広がってた。
俺は仰向けに倒れてた。
起き上がろうとすると体中が痛くて、ふと左腕と左脚を見ると変な方向に曲がってて「ひ、ひゃあああああ」って上擦った悲鳴が出た。
それから激痛で泣きながら匍匐前進するようにその辺を這いずってると、獣道?ではないが、人が長年踏み固めて出来たような土の道に出て、その向こう側に広がる景色に工場の煙突とか色んな建物の屋根が見えて泣くほど喜んだ。

芋虫みたいにズリズリと這いずって土の道を進んでたらウォーキングウェアを着た初老くらいのおばさんと遭遇して、おばさんが「ぎゃあああ」って悲鳴を上げたから俺も「わあああ」って驚いた。

だが、すぐにおばさんは俺のところに駆け寄ってくると「だだだ、大丈夫?」ってパニックになりながらも慌てて携帯電話をポーチから取り出して救急車か誰かに電話してた。
俺はというと、普通の人間に会った安堵感から消え入るように気を失った。

で、目が覚めると病室にいて、母親がベッド脇に立ってた。
俺が「おかあさん?」と呼びかけると号泣しながら抱き付かれてすごい痛かったが、それ以上に家族の許に戻れたことが嬉しかった。

そして、医者や両親から聞いたんだが、俺は山で滑落して全身強打したらしい。
幸い死ぬような高所からじゃなかったのか、固い地面か木とかに体が叩きつけられた際に左腕と左足が骨折したのだろうと説明された。
それで転がった先が運よくあのおばちゃんのウォーキングコースだったから衰弱する前に発見されてすぐに病院に運ばれて助かったと聞いた。

でも俺は覚えている。
俺は滑落してないし、変な生物に襲われた事を。
俺は子供ながらその体験談を母には話したんだが、母は「猿に追いかけられたんね?もう山に入っちゃダメよ!」てな感じで猿か猪に俺が追いかけられて滑落したんだと思われた。
子供の言う事だから猿とかの動物を恐怖心からバケモノみたいな生物に脳が書き換えたと思われたっぽい。
その時の俺はまだ入院中で精神的に疲れてたから反論もせずに「ごめんなさい」と素直に反省した素振りをみせて、事故について訂正する気力はなかった。
それに、山での出来事を忘れ去りたかったのかもしれない。

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コメント(1)
  • 怖い

    2023/03/06/20:12

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