不思議なアパートに住んでいました

私は両親と弟の4人家族で、
狭いアパートに住んでいました。
母が独身時代から住んでいた、木造の古い建物です。

私たちの部屋は2階にあったのですが、
階段も廊下も狭くて薄暗く、
いま思えばずいぶん不気味な建物だったなと思います。
でも生まれたときからそこに住んでいた私にとっては
それが当たり前の環境だったので
怖いとか、不気味だとか思ったことはありませんでした。

アパートではたびたび不思議なことが起こりました。
大人になった今同じ体験をしたら

「怖い」といって大騒ぎしそうですが
まだ3歳くらいだった私は
現実に不思議なことが起きても
それがおかしいとは思わなかったのです。

そのうち二つをご紹介します。

一つ目は、夜寝ようとすると聴こえてくる、
男性の歌声です。
枕元から男性のコーラスのような声が
響いてくるのです。
歌詞はなく、「アー、アー」と
単調なメロディーをただひたすら歌っている声です。

それが毎晩のように続くので、
ああ、また歌ってるな・・・と
思いながら眠りについていました。

二つ目は、天井から降って来るカバンです。
小さな赤いカバンが、上からくるくると回転しながら
落ちてきました。
いかにも女の子が欲しそうな
可愛らしいカバンです。
私はそのカバンをつかみたくて
一生懸命に手を伸ばしていました。
母に「何やってるの？」
と怪訝な顔できかれたのを覚えています。
母にはそのカバンが見えなかったようです。