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心霊

dhgdfさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

笑い声のする石垣
短編 2024/05/24 14:36 568view

Eさんという方から聞かせていただいた話です。
Eさんは若い頃はかなり生活が苦しく、古い安アパートに布団1枚という長屋暮らしをしていたそうです。
普段はそれで何とかしのいでいたのですが、冬になると寒くてとても部屋で眠ることが出来ず、夜になると近所の公園の周りをあてもなく散歩していたそうです。
師走のはじめ、寒さで痛みと苦しみに悶えていたEさんはふらつきながら起き上がって出かけたそうです。
人の気配もない暗い道を歩いていると、どこかから何名かの笑い声が聞こえてきたそうです。
当時は町中に不良がいるような時代で、所謂「カツアゲ」や「オヤジ狩り」と呼ばれるような犯罪行為が全国的に起きており、Eさんは身の危険を感じて帰ろうかと考えたそうです。
ただその笑い声は、よくよく聞くと大人と子供、男性と女性のそれが混ざったもので、おそらく家族団らんの笑い声だと気づいたそうです。
いよいよ心も冷たくなってきて、すぐに通り過ぎたくなって早足になりながら、ふとどこから聞こえてくるのだろうと周りを見渡した時、妙なことに気づいたそうです。
その道は左側は公園と植え込み、右側は雑木林で、民家もアパートもないのだそうです。

今は公園に子供と遊びに来るような時間でもないので、どこか近所に家でもあるのかと思って歩きながら探してみたそうです。
進んでいくとその笑い声が大きくなってきて、すぐ近くで聞こえてくるようになったそうです。
しかしそこにあるのは公園の柵と石垣で、無論公園の中に人はいない。
Eさんにはどちらかというと石垣の方からこの笑い声は聞こえてくると感じて、壁面に耳をすませてみたそうです。
歩道の方まで苔がむしている場所あたりまで来て、Eさんは「ここから聞こえる」と確信したそうです。
そこには家はなく、石垣から直径3センチほどの排水のパイプが突き出しているだけだったそうです。
Eさんはそのパイプに引き寄せられるように耳を近づけたそうです。
笑い声は既にその主の内訳すらわかるほど鮮明になっていて、男性が一人、女性が一人、子供が三人だと感じたそうです。
いよいよ話の内容までも分かるんじゃないか、というほど近づいた時、Eさんは体勢を大きく崩していることに気づいたそうです。

足元の苔に滑って前に倒れそうになり、Eさんは焦って上体を逸らせてしまい酷く尻もちをついたそうです。
痛みからその場に座り込みながら、はっとしたそうです。
自分がこんなところで何をしているのか、どうしてそんな笑い声が気になるのか、そして石垣から聞こえるなんて妙なことを考えていたのか、先ほどまでの自分の行動が信じられなくなって呆然としていたそうです。
笑い声はもう聞こえなくなっており、しんとした暗闇が広がっているのを見て、Eさんは気味が悪くなって走り出したそうです。
するとその後ろで、また声がしたそうです。
それは大人と子供、男性と女性のそれが混ざった「あーーーーーー」という、感情のない声だったそうです。

Eさんは人から聞いた話を付け加えて話してくださいました。
今はそんなことはないそうですが、昔は石垣に墓石を使っていたという話があるそうです。
ただしその「墓石」は実際に人が埋葬されていたものではなく、石を切り出した時の余りやとちって割れてしまったものを使うのだそうです。
それらは形にもならず名前も彫られていないわけで、墓石とは呼ばないのではないかと思ったそうですが、少し考えて怖くなったそうです。
何かが宿ってしまったものを、暗い石の中に閉じ込めてしまったのではないか…と。

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