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妖怪・風習・伝奇

トワさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

海狐狸(うみこり)
短編 2023/10/13 15:49 5,227view
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アザラシ?
それともトド?

立ち込める霧の中で、その姿は徐々に露わになっていく。

それはアザラシでもトドでもなかったんだ。

べったりと海藻のようにへばりついた前髪の隙間から、ぎょろりと目玉だけが狂ったように動いている。

そのあまりの恐ろしさといったら、爺ちゃんはその場で腰を抜かしたって言ってたよ。

しかもその顔、よく見たら数週間前に海に落ちて行方不明になった近所の男の子にそっくりだったんだって。

爺ちゃんにもよく懐いていたから、覚えてたんだって。

────で、その男の子が今、目の前にいる。

それも以前とはまるで違う、あまりにも悍ましい姿でニタニタと微笑んでいる。

その時、爺ちゃんは思ったんだ。

ああ、あの子は海の魔物に魅入らてしまったんだって。

だから、お盆の時期には決して海に出てはいけない。

だってこの時期は他に行き場のなくなった海の亡者たちも、うようよと海中を彷徨っているからね。

「すまんかった。観念してくれ」

爺ちゃんはそう言って何度も頭を下げたんだ。

でも、気付くと船の周りには他にも無数の化け物たちがいる。

その中には漁に出かけたきり、帰らなかった仲間の姿もあったらしいよ。

彼等は船べりから顔を覗かせると、ニタニタと不気味に笑うんだ。

爺ちゃんはもう生きた心地がしなかったって言うよ。

そして、一心不乱に念仏を唱えた。

でもその時、ふと爺ちゃんの脳裏にある一つのことが過ぎったんだ。

海の化け物には木灰が効く。

だから漁師は必ず、船の中に木灰を置いている。

万が一の時の御守りみたいなもんだって言うんだ。

爺ちゃんは急いで船内から木灰の入った袋を手にすると、勢いよく化け物に向かって撒いたんだ。

途端に化け物たちは次々と狂ったような悲鳴を上げて、煙のように海の中へと消えていった。

あんな悍ましい声を爺ちゃんは未だかつて耳にしたことがないって言ってたさ。

で、そこから先はあまり記憶がないらしいんだけど、気付いたら爺ちゃんは漁師仲間の家で寝かされてたっていうよ。

それも三日間もね。

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コメント(4)
  • 私の地元でも、お盆の日は漁に出ても、泳いでもいけないと小さい頃から言われ続けていました。
    お盆に県外から来た観光客は必ずと言って水難事故が多いのは確かです。
    それも、海狐狸の仕業なんですかね。

    2023/10/17/00:35
  • ↑お読み下さり、ありがとうございますです!!恐らく海狐狸たちの仕業だと思いますです🤔今年の夏も大暴れしてましたし、また新たな海蛹も生成された可能性が高いです(汗

    2023/10/21/16:41
  • 海蛹で画像検索したらグロ画像がいっぱい出てきて死にそうになったけど、海狐狸で検索したら可愛いキツネの画像が出てきて助かった。

    2023/10/28/13:10
  • ↑まさかの海狐狸に助けられた貴重な経験談😂(正確にはキツネですけど)

    2023/11/02/22:48

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