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ヒトコワ

ノノさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

隠された殺人
長編 2022/08/30 23:20 1,976view
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自宅で人が亡くなると「不審死」とされ、警察を呼ばなければならないことは知られています。このことは、わが国の制度がしっかりしていることの象徴のように語られることもあるようです。

ところが、実際はその逆であることをご存じでしょうか?

実は、自宅で家族が亡くなり、遺書もなく、家族が他殺を疑ったとしても、警察に殺人事件として捜査してもらえることは滅多にないのです。

これは、私の知人のある会社役員の奥様から実際に聞いた話です。

会社役員のOさんは、55歳でした。曲がったことが大嫌いなまっすぐな性格で、仕事熱心でありながら家族も大切にされる方でした。どうしても汚い部分もある会社組織では、不正を許さないOさんは煙たがれることもありましたが、Oさんを特別に引き立ててくれる重役の存在もあり、順調に出世していったのだそうです。

Oさんは、部下からの信頼が厚かったことから、
Oさんの元では優秀な社員を多く輩出し、会社には欠かせない存在でした。Oさんを引き立ててくれた重役は、会社が秘密裏に行っていた不正の情報をOさんの耳に入れないように根回しをして、Oさんが疑問なく会社で実力を発揮できる環境を用意してくれていたのでした。

しかし、その重役は、病に倒れ、亡くなってしまいます。これまでは、重役の特別な配慮で、知ることがなかった会社の長年の不正をついにOさんも知ることになりました。このときばかりは普段は会社のことを話さないOさんもショックを受け、奥様に苦悩を話されていたそうです。

Oさんの会社は、医薬品を扱う会社でありながら、長年にわたり厚労省との癒着があり、薬事申請の際には、まだ治験が十分とは言えない医薬品や医薬部外品に対して、優遇措置がなされていました。このことが明るみになれば、会社を揺るがす大事件であり、何よりすでに認可を受けている薬を飲んでいる人たちの身にどんな異変が起こるかわかりません。

Oさんは、すぐに社内で、問題提起をしました。しかし、普段は仲間として助け合っている社員にも賛同する人はいませんでした。この癒着がなければ、会社の経営は立ち行かなくなり、自分や家族の身にも降りかかるからです。ある程度、薬の知識がある社員からは「このぐらいは許容範囲だし、問題ないことだ」とさえ、言われていました。

しかし、黙認することができなかったOさんは、内部告発をしようと決意します。誰かに相談すると決行できなくなるため、社内の人間はもちろん、家族にもこのことは言いませんでした。奥様にもすっかり会社の悩みは言わなくなっていたのだそうです。

奥様は、みるみる痩せていくOさんを心配して、病院での検査をすすめましたが「理由は自分でわかってるから。終わったら話す。」と言うばかりだったそうです。そして「会社を辞めたら旅行に行こう」とか「老後は畑をやりたい」といった話をするときには、心から楽しみにしている様子だったそうです。

ほどなくして、Oさんは、自宅の書斎で、首を吊った状態で発見されます。奥様は直感的に「自殺などはあり得ない。殺されたのだ。」と感じました。遺書も遺書に代わるようなメモも残されていませんでした。

しかし、Oさんの遺体には、他殺を疑う余地はなく、自殺であるとしか言えない状態であったため、すぐに警察により「事件性はない」とされてしまいました。

このとき、まるで、遺族である奥様に考える隙を与えないかのようなスピードで物事が進んでいってしまったのだそうです。Oさんの死は突然だったにもかかわらず、会社では、通夜や葬儀の準備のほとんどを手配してくれました。奥様としては助かりましたが、今思うと「すべてがおかしいほど早く進んだ」のだそうです。

通夜、葬儀と慌ただしく済ませ、ようやく落ち着きを取り戻した奥様が、Oさんの手帳を見つけたのは、一か月ほど後のことでした。

この手帳には、会社の不正のあらましや、内部告発をする決意や、告発する文章の下書きが残されていました。手帳はOさんの机の引き出しの中ではなく、天板の方に貼り付けられていて、簡単には見つからないように工夫されていたそうです。

奥様は、内部告発のことがどこかから漏れたか、内部告発をしそうな人物だと危険視されて、会社側に雇われた何者かによって殺されたのではないかと思っている、と話されていました。

奥様は、遺書がないにもかかわらず、すぐに「事件性はない」と言い切る警察の態度には不信感を感じたのだそうです。しかし、突然のご主人の死という事態に、冷静な判断ができなかったことを悔やんでおられました。

「ごめんなさい。」とご主人の遺影に向かって語りかける奥様を前にして、かける言葉も見つかりませんでした。

しかし、遺体はもう荼毘にふされていて、捜査をしようにもすることができません。それに、もし、亡くなった当日に「他殺である」と訴えていたとしても、プロの手によって、自殺体と同じ遺体になるように殺害されていたら、犯人を捕まえることは叶いません。

奥様は、悔やんで悔やみきれない想いを抱えて、苦しい毎日を過ごされているそうです。
Oさんの無念をしてしまうことも晴らすために、せめて内部告発の文章を清書してマスコミ各社に送ろうと考えているのだそうです。

このように、本当は他殺である疑いが濃厚であるにも関わらず、警察によって捜査されることもなく、自殺として扱われる例は数多くあると思われます。

一方で、自殺するはずがない人が、鬱病などの心の病で、誰もが信じられないようなタイミングで自殺をしてしまうこともあります。自殺かどうかの見極めは非常にむずかしいのです。

日本は平和だ。戦争もない。銃もない。警察はちゃんとしている。そんな思い込みが、いつしかあなたを奈落の底へと突き落とすかもしれません。

あなたがもし殺されて、自殺ではないのに自殺として処理されたら、どうでしょうか?

これまで、殺されてしまったのに自殺として処理されてしまった数えきれない命があったのかもしれません。

そして、人の命を奪っておきながら、捕まるどころか大金を手にして、のうのうと過ごしている犯罪者があなたの隣にもいるかもしれません。

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