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特別投稿

奇々怪々さんによる特別投稿にまつわる怖い話の投稿です

【特別投稿】或る殺人者の手記
長編 2022/08/11 12:00 85,557view
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店の裏口や、停めてある自分の車のドアをMに開けさせて、まだ日の登らないうちに暗闇に紛れて、やっとのことで店長を後部座席に載せました。
力の入っていない人間はこんなに重いものかと思いました。
でもまだ暗いし、窓も凍っているので、ほかのひとからは見えないと思いました。
店に戻ってからは、看板の灯りは消してあっても入口の鍵をかけていなかったことを思い出したのであわてて鍵をかけ、Mに手伝わせてカウンターの内側についている血を洗い流しました。

それから、たばこを一服しながら、レジの金を数えました。
Mはカウンターに座っていましたが、どこを見ているのだかわかりません。
レジの金は8万円少々。週末のわりにはしけた売上でした。
とりあえず3万円をMの鼻先に叩きつけ、「おまえは、きょう、ここには来なかった。わかるな」と言いました。
かぼそい声で「うん」という返事が聞こえます。
「なにも見ていない。そうだな」と言うと、また「うん」。その後、裏口からMに出ていくように言いました。

全部を片付けて、自分が車に乗り込んだときにはもう日が出るところでした。

とりあえず、駅前から離れた、いつも自分が通っていたパチンコ屋の大きな駐車場の端に車を停めました。
もうここにも来れないな、と思いました。
レジの金の残り5万円ではどうせ遠くには逃げられません。
店長のポケットを漁ると財布が出てきて、10万円ほどの札が折り畳まれて入っていました。
ふと、店長の家に行けば、もう少し金が手に入るかもしれない、と自分は思いました。遺体を捨てに行く前に金を用意しなければ。

店長の部屋は、車で20分くらいの距離にあります。
途中でパトカーとすれ違ったときには多少緊張しましたが、問題なく到着しました。
朝だから人の出入りが激しいかもしれない、と到着する寸前に心配になりましたが、日曜日の朝だったからかだれにも会いませんでした。
だれかに声をかけられたときの言い訳を必死に考えながら廊下や階段を歩き、店長のポケットから取った鍵を使って、部屋に入りました。
小汚い、掃除をされていない部屋に、男くさい万年床が敷いてあるばかりで、金目のものは一切見つかりません。仕方なく自分は車に引き返しました。

車に戻って、すぐにそこを出発して自分は南に進みました。

行くあてもなく、国道を進んでいきます。
とにかく、目立たない場所に遺体を捨てないといけない。生臭い臭いに耐えられず、運転席の窓を開けました。
幸い、外はまだ寒いのでほかの車は窓を開けておらず、気づかれる心配は無さそうです。

そのときでした。県境の、トラックしか走っていないような道路で信号待ちをしているときに、何気なくバックミラーを見ると、そこに、店長が座っていました。
「うわっ!」と思わず声が出て、自分は後ろを振り向きました。
誰も座っていません。当然です。
店長の遺体は目立たないように後部座席に寝かせて、首元には自分の上着をかけておいたし、なにより、店長はとっくに死んでいるのですから。
でも、後部座席に寝ている店長の両目は開いていて、横目にこちらを見ているようでした。
「くそっ!」と悪態をついて、上着で顔も覆うようにしました。
心臓がひどく鳴っているのが、自分でもわかります。
やけに喉が渇き、胃のあたりがむかむかしました。

4/10
コメント(4)
  • 実話をもとに書かれたリアルな体験談。
    中盤から終盤にかけてのモノローグ。
    得体の知れない衝動に駆られ、かくたる動機もなく、人を殺めてしまったことへの後悔と罪悪感に苛まれ、恐れおののく様がぐいぐいと痛いほど伝わってきます。
    精神を病み、幻想とも幻覚とも付かない店長から逃げ惑う日々に終わりを告げ、安堵する姿は、どこかホッとさせるものがありました。
    17年の実刑判決を終え、穏やかで平穏な日々を送られていることを切に祈り願います。

    2022/08/11/16:50
  • 読み応えありました
    いくつかの単語でググったら割と有名な事件出てきたけど、そんな簡単に特定できるわけないですよね

    2022/08/12/09:27
  • 当時の彼女のことは警察には言わなかったのかな

    2022/08/30/13:33
  • 次回作も期待

    2022/10/14/09:39

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