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不思議体験

74さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

宙に浮く男
短編 2022/03/01 06:52 1,324view

その後、何事もなく月日は流れた。
おれは高三になりボート部も県大会を勝ち抜けるくらいに立ち直っていた。
この頃には不思議な体験を思い出すことはなく忘れていたくらいだった。
そして夏の国体ブロック予選での出来事。
おれ達は二位通過であるが五年ぶりの国体出場を決め、表彰式前応援に来てくれた先輩と話していた。
先輩は五年前の国体に出場した時のメンバーで、休日にはコーチを引き受けてくれる人だった。
そんな中で先輩が「用務員さんも喜んでくれてるだろうな。」と言った。
当時、学校に用務員さんは居たが、おれは話した事もないし、何故そんな話になるのか不思議だった。
先輩に理由を尋ねると妙に納得の行く答えが返ってきた。
「お前らは知らないと思うけど、前の用務員さんはボート部を応援してくれてたんだよ。巡回中に亡くなったんだけどさ。」

脳裏にあの冬の日に見た作業服の男が蘇る。
詳しく聞けば、その用務員さんが亡くなったのはおれの入学する直前の冬。
連れションに行ったあのトイレで倒れているところを発見されたのだという。
うちの学校は真面目に活動している運動部が少ない為、全国区のボート部を可愛がってくれていたそうだ。
おれの中であの冬の日に見た作業服の男と亡くなった用務員さんが繋がった。
(亡くなった後もボート部を応援してくれていたんだな)と。
先輩にこの話を聞いた後、表彰のうれしさとは別に、亡くなった用務員さんへの気持ちがこみ上げたことを覚えている。
ボート部を引退した後、何度かあの日と同じ時間にトイレを見たが何も起こらなかった。
あの冬の日以来、おれは心霊体験をしていない。
青春時代の不思議な記憶。

2/2
コメント(1)
  • なんだか温かみがある話ですね
    今もボート部を応援しているのでしょうか

    2022/03/01/11:58

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