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妖怪・風習・伝奇

空穂さんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

「おめどご嫁にはむげ入れね」
長編 2021/12/11 21:34 53,003view
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大人数で食事を囲んでの宴会が始まった。
義弟は親戚たちにお酌をしながら、「今日はすみません」「どうぞよろしくお願いします」と頭を下げて回っていた。
周りの男たちも、「いやいや、頑張れよ」「本家は仕方がない」など言いながら、義弟の肩を叩いて労っている。
やがて、義弟がKくんのところにも来た。

「お義兄さん。ほんとに今日はありがとうございます。よろしくお願いします」

深々と頭を下げる義弟に、Kくんは「いやいや」などと返していたが、お酒が入っていたこともあり、とうとう自分から聞いてしまった。

「あの〜……。ところで、儀式っていったい何をするの?実は、まだ詳しいことは何も聞いてなくて……」
「あっ、そうですよね」

義弟はハッとしたような顔をすると、すぐに義両親を連れてKくんのところに戻ってきた。

「すみませんねえ。バタバタしてて。Kさんは外の方だからご存知ないのにねえ」

「いえいえ……」
「えー、それじゃ時間もいい頃合いなんで、そろそろ始めようと思います。皆さんよろしくお願いします」

義父の声を聞いて、それまで賑やかに食事をしていた男衆がピタッと黙り、義父の方を向いた。

「えー、じゃあ、すみませんが遠縁の方から順番に部屋に行っていただくということで。◯◯さんからになるかな。で、次は△△さんね。Kくんは、悪いんだけどS(義弟の名前)と一番歳が近いから、後に回ってね。念のため従兄弟たちの方をもっと後ろに回すから安心して」
「は、はぁ……」

義父が矢継ぎ早に説明するのを、Kくんは圧倒されながら聞いていた。
義母が、「すみませんねえ、ほんとにバタバタして」と相変わらずペコペコ頭を下げながらKくんに話しかける。

「順番が来るまではここで食事をしていてくれて構わないし、あっちで仮眠しててもいいから。あのー、順番にね、儀式のお部屋で、灯りの番をしてもらうんですよね。一晩中灯りを絶やさないようにね」
「あ、そうなんですか」

Kくんの脳裏に、お通夜の「寝ずの番」が過ぎった。ああいうやつの田舎版なのかな。でも、あれは人が死んだときにするやつだし、こっちは結婚だからなんか変だよな……。

「それでね、あのー、灯りの番をしているとき、多分誰かが来ると思うんですけどね。何を話しかけられても、絶対に【おめどご嫁にはむげ入れね】って返事してくださいね。それ以外は何も喋らないでね」
「……え、ええ?」

突然の奇妙な説明に、Kくんはさすがに面食らった。からかわれているのかと思ったが、義母も、義父も、義弟も、ほかの親戚たちもみんな真面目な顔をしている。

「返事をしないのもあんまりよくないからね。もう、ただ【おめどご嫁にはむげ入れね】って、それだけ繰り返してればいいから。お願いしますね」
「え、あ……はい……わかりました……」

何か質問できるような空気ではなかった。
Kくんはビビりながらも、頷くしかなかったという。

そして、「儀式」が始まった。義両親の案内に従って、1人、また1人と、男たちが家の一番奥の部屋へと向かって行く。1人あたりの担当時間は約1時間弱といったところだろうか。年配の男性から先に呼ばれていき、Kくんの番になった頃には、深夜の2時頃になっていたという。

指示された部屋は、長い廊下の突き当たりにある和室だった。中には簡単な神棚のようなものと、お酒と果物のお供物、それから長い蝋燭が立っている。
居間を出る時に、義母から「部屋には必ず1人で行って。中の人に声は掛けずにそのまま障子戸を開ければいいから」と言われたKくんは、その通りにした。
中にいた親戚の男性は、どこか憔悴した顔でKくんを見ると、軽く会釈をしてそそくさと出て行ってしまった。
これで、Kくんは次の番の人が来るまで1人である。

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コメント(16)
  • おもしろかった!!

    2021/12/11/21:46
  • なんとなく八尺様を思い出しました

    2021/12/11/22:00
  • Kくんお疲れ様です。
    先祖と時代が違うってのを教えてあげなくちゃ逝けないね!

    2021/12/12/05:03
  • 男衆は生贄みたいなものかな
    でも見ちゃったらどうなるんだろう

    2021/12/12/09:43
  • 次その風習に参加するときは、貴方のほうから、「貴女をひどい目に合わせた人はもうここには居ない」と説得し納得させたみてはいかがでしょうか。
    じゃないといつまでもその風習は終わらないし、その女性もうかばれない様な気がします。

    2021/12/14/20:19
  • 本家だけに執着してるようだから
    無くしちゃえば?本家。
    万が一義弟夫婦に子供が産まれなかったらいい機会。
    もう養子縁組だの新しい嫁で再婚だの余計なことをして本家存続はしないように。

    2021/12/23/16:37
  • 田舎のいかにもな話だな。バケモンも大変だ。

    2021/12/30/18:34
  • 何も事情を知らぬ、血縁者でもない親戚をわざわざ呼び付けて参加させる意味は?
    頭数は多ければ多いほどいいってこと?
    事情を知らない人間を入れると失敗する恐れがあるのにね。

    2022/02/19/18:35
  • いかにも片田舎にありそうないわくつきの話です。
    無念の死を遂げた不憫な娘の怨念は、そう簡単に消えることはないでしょうが、もうかなり昔のこと。未だに誰一人成仏させてあげられないとは情けない。大の大人たちが、事情も知らない部外者まで巻き込み、ただただ怯えおののくだけの体たらく。読みながら怒りすら湧いてくる胸糞話ですが、内容ストーリ展開、実話かどうかは定かではないが、面白く読めました。

    2022/04/02/20:27
  • 方言から見て秋田県の県南地方なのかな。面白かったです。

    2022/04/22/06:16
  • 話に引き込まれ凄く面白かったです。
    相手にしてみれば、酷い仕打ちを受けそれでも律儀に嫁に貰ってくれと出てものの、拒絶され続ける事を考えると何とも理不尽で切ない話でした。
    もし、失敗した時はどうなるのか?怨みの強さから恐ろしい事になるのは必至ですね。

    2022/07/06/18:00
  • 大丈夫。慣れる。

    2022/08/21/09:26
  • あちゃー、このセリフ、噛んでしまいそう。

    2023/07/09/00:24
  • 途中までエロ漫画展開かと思ってしまった

    2023/07/30/18:06
  • 悲しいお話だった

    2023/10/02/18:26
  • 滅多に出会えない上質な怪談でした。ありがとうございます。

    2023/10/18/23:08

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