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不思議体験

macoroさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

放浪している祖父
短編 2021/12/05 11:55 875view
 私の祖父は、無口でマイペース、そして私たち孫の事を何よりも大切にし、可愛がってくれる人です。
 そして祖父には、放浪癖があります。親族との旅行中も、気が付けば姿が見えなくなり、そして同じように気が付けば戻ってきている。そんな自由な人でもありました。

 冬休み、私たち一家と親戚で帰郷した際の出来事です。

 私と従妹、そして祖父母の四人は、祖父の運転で遠くにある温泉に向かっていました。流石に車でフラフラと放浪するわけではなく、祖父はカーナビに従って車で1時間の道を走り、無事に目的地に到着しました。
 私たちは温泉を堪能し、美味しい食事をいただきました。祖父も実に充実した時間を過ごしました。

 その帰り道の事でした。
 体が温まり、お腹がいっぱいなるまで食事をしたため、祖父は眠気に襲われていました。もしもの事を考え、祖母は道中のコンビニに立ち寄り、コーヒーや眠気覚ましになるものを買おうと提案しました。
 店の前で車を止め、祖母は一人でコンビニに入っていきます。
 私は体をほぐすために、従妹と祖父を車に残してコンビニの近くを歩くことにしました。

 周辺の田んぼを眺めながら歩いていた時、遠くの方から声が聞こえました。祖父の声でした。
 彼は私の少し後ろにいて、私の名前を呼んで頬んでいました。
 彼と一緒に歩こうかと思いましたが、祖父の放浪のペースに合わせることも無いかと思い、私も自分の気分で足を進めました。

 ひと歩きをして車に戻ったら、車内には既に私以外の3人がそろっていました。
 祖母と従妹はコーヒーを飲み、祖父は運転席で仮眠をとっているようでした。
 外を歩いていた祖父を見ていた私は、今回の放浪はあっけなく終わったのかと少し意外に思いました。

「もう散歩終わりなんて、おじいちゃん相当疲れてるのね。」

 そう従妹にいうと、従妹は不思議そうに首を傾げました。

「散歩してたの?ずっと寝てたけど?」
「ずっと?」
「うん。停車してからずぅっと。」

 従妹の言葉に私も首を傾げていると、祖母が祖父を起こしました。なんとなく、祖父を揺する祖母の手つきがいつもと違う気がしました。私が知るような熟年夫婦の温かい手つきではなく、どこか遠慮がちな手つきでした。
 祖父が仮眠から目を覚ますと、大きくため息をついて、祖母の手を払いました。

「うるさい。やめろ。」

 祖父は冷たく言い放ち、雑にエンジンを掛けました。

 優しい祖父のこのような不機嫌な姿を見たことがなかった私は、訳が分からず、隣に座わる従妹にメールをしました。

『おじいちゃんなんで怒ってるの』

『いつもこんな感じじゃん』

『全然違うよ』

『いや、だいたい機嫌悪いじゃん』


 それを境に、祖父は私の知る祖父ではなくなっていました。
 放浪もしなければ、せっかちで、私たちにあまり関心がない人になっていました。
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コメント(1)
  • 別の世界線に来てしまった可能性も…

    2021/12/06/17:50

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