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ヒトコワ

クアニチさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

猫の鳴き声
短編 2021/11/20 12:23 420view
私が住んでいた所は風通しの問題なのか、非常によく音が通る場所だった。
歩いて15分以上かかる場所にある線路に電車が通る音も聞こえるし、小さな山を隔てた所にある学校の体育祭の音も聞こえる。とにかくよく色んな音がした。

さて、何時の頃からか家の近辺に野良猫が増えはじめた。見た目は可愛いものの、糞害がひどく住民の悩みの種となっていた。そしてもう一つ悩みの種だったのがその鳴き声だ。普通ににゃあにゃあ鳴いているだけなら良い。だが、発情期の季節になるとそれはそれは五月蠅くなる。特に夜。発情期の猫の泣き声を知っている人にはわかってもらえるだろうが、そういう猫の泣き声は、人間の赤ちゃんの泣き声のようにも聞こえ、なんとも聞いている人を不安にさせる声なのだ。

ある夜もそうだった。発情期独特の猫の間延びしたような鳴き声が聞こえてきた。うるさいなぁ、と思って窓を閉めたのを覚えている。それでいくらか音はましになった。ちょっとしたら猫の声もやむだろう。そう思っていた。いつもがそうだったからだ。
しかし、その日は違った。閉めた窓を通しても声が聞こえるほどに大きくなってきた。さらになんだか様子が違う。普段の間延びした声を更に延ばしたような……形容しがたいが、聞いている人を不安にさせるには十分な異様さだった。これはもう、猫の声というより赤ちゃんの泣き声そのものでは……。
「なんかいつもと違くない?」
そんな声が家族からもあがり始める。近所の人からも異様さに怯える電話がかかってきた。近所の人は出所は不明ではあるが警察に通報したと言う。
しばらく不安な時を過ごし、もう1時間くらい経っていただろうか。次第に声は聞こえなくなっていった。
「なんだったんだろうね」「今日のはひどかったね」なんだかんだ猫の鳴き声ということで落ち着いて、我ら家族は眠りについた。

真相を知ったのは翌々日の朝刊を見た時だ。
近所の大型スーパーの駐車場で、無理心中をした母子が社内で見つかった、という記事がそこにあった。
子供は母親によって複数の箇所を切られ、母親も自分で自分を切り自殺していたという。日付、時間を見てぞっとした。
その日、その時間は私たちが猫の異様な鳴き声を聞いていた時間だったからだ。これが意味することは一つ。
つまり、私たちが猫の泣き声だと思って聞いていたのは、体を斬りつけられる子供の断末魔の声だった、ということだ。

それ以来、猫の鳴き声が聞こえるとあの時の異様さを思い出して少し緊張してしまうようになった。その時亡くなった子供を悼むと同時に、子どもが苦しんでいる声と猫の泣き声はそれほどまでにそっくりだったことを思い出さずにはいられない。
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