ライブハウスの音源と心霊スポット

僕の小学生の頃からの友人にS君という男がいます。
とても繊細な性格で、本人は霊感など持っていないのですが、僕が知っている限り霊障体験を数多く体験しているような奴でした。

そんなS君と僕は、高校生の頃に一緒にバンドを始め、20代の半ばまで精力的に活動していました。

ある日、都内でのライブを終えた僕たちは、バンドのメンバーとその知人や彼女なんかを車に乗せて、かの有名な心霊スポットへ行くことになりました。

S君はビビリのくせにその頃はなぜかやたらと心霊スポット探索にハマっていて、かなりノリノリで楽しんでいた様子でした。

バンドマンはライブを終えた後、ライブハウスのスタッフから録音したライブ音源をもらえる仕組みになっています。
1000円ほど支払うと録音したデータやビデオテープを受け取ることができます。
当時はまだVHSのビデオやMDでデータをもらっていました。

心霊スポットへ向かう道中、車の中でその日のライブの音源を聞きながら反省をしたり、メンバー同士あーだこーだと語り合うのがいつもの流れでした。
さっそく音源を聞こうとMDを取り出そうとしたのですが、なぜかどこにも見当たらない。

その内出てくるだろうと一旦探すのを諦めました。

ちょうど心霊スポットに到着し、車を停めてみんなでワイワイと探索を開始。
大勢で歩いていたからなのか、いまいち恐怖感を感じられず、夜のピクニックにやってきたような気分でした。

心霊現象など起こるはずもなく、１時間ほどして車に戻り帰ることになりました。

しばらく国道を走らせていると、ふと僕は無くなったMDのことをメンバーに話しました。
するとなんとMDだけではなく、今度は録画したビデオテープまで失くなっていたのです。
サイズ的にすぐに見つかるはずなのにどこにもない。
しかもさっきまであったのに。

これはおかしいと、みんなで車内を探し回りましたがどこにも出てこない。

その時とつぜん、S君がぶつぶつとつぶやき出したのです。

どうした？と声をかけると、S君は天井を向いておかしなことを言い始めました。

「ずぬが持ってるとおもうよ」

は…？と一瞬その場がシーンとなりました。

するとS君は天井を向いたまま「うんぬが持ってるよおおおおおお！！！！」と大声で叫び出したのです。

一緒にいた女子たちがきゃああ！と叫びだし、恐怖が伝播して男たちも引き攣りはじめました。

僕は運転していたのですが、事故を起こすまいと鳥肌を立てながら冷静さを保つよう努力して運転をしていました。

心霊スポットに行ったから何かを連れてきてしまったのかもしれない…。でもそれを口にしたら更にパニックになるのを恐れ、僕はだまっていました。

みんなその空気を読んだのか、シーンと黙ったままでした。

その後みんなを駅に送り、気絶するようにして眠りだしたS君を乗せたまま、地元に帰りました。

S君の家の前に到着し、「着いたぞ。っていうかお前…今日のあれ何だったんだ？」と聞くと、「え？何が？」と何も気付いてない様子でした。