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都市伝説

破裂さんによる都市伝説にまつわる怖い話の投稿です

人混みの向こう
短編 2020/12/27 23:10 1,968view

 この街にはおかしな噂があると知ったのは、越して来てからひと月ほど経ったときのことだった。それは噂といってもゴシップのような低俗なものではなく、都市伝説じみた話だった。
 隣人の松野さんは近所の大学のオカ研らしく、私もそういうのが好きだと伝えると、嬉々としてこの話をしはじめた。
「人混み。カッコよく言えば雑踏。どの街にもできるだろう。催し物があったり、八百屋が大安売りしていたりすりゃ、自然と人は集まる。そんな時に見えるんだよ。女の子が。人と人の隙間に一瞬だけ、スッと姿を現す。でも次の瞬間にはもういない。しかもその子はこの街の子供じゃない。というか、この世のじゃない。一度我がオカルト研究同好会会長がこの噂を調べたんだ、留年してまでね。それでもその子の正体は分からなかった。あの時は悔しいのか泣いていたよ。あ、あと、この話は俺が作ったんじゃあない。俺の親父の代からもうあるんだ。もし嘘だと思うなら、大家の渡辺さんにも聞いてみなね。」
と、彼は慣れた口調で喋りきるとノンアルコールビールをくいとあおった。

 その話を忘れかけていたある日、ついに私はその女児を目撃した。商店街の厚い人の層の向こう側、冬場だというのにピンクのTシャツを着た女の子が黒々とした人の背の中に現れた。私は反射的に目を見開き右手を前に突き出した。
「リカちゃん!」

あれは間違いない。リカちゃんだ。20年も前の記憶が一度に蘇る。自分でも忘れていた記憶。幼い日の、初恋の思い出。
 リカちゃんは給食の時間に私が嫌いだったトマトを代わりに食べてくれた。帰る方向が同じだったから、いつも途中にある小さな公園で遊んだり話したりした。児童会長に私が立候補したとき、誰よりも私をサポートしてくれた。
そして、リカちゃんは私が意を決して告白しようとしたその日の朝早く、火事で焼け死んだ。焼け跡からは私があげたゴム製の特撮ヒーローが焼損した状態で出てきた。枯れるほど泣いた私は、いつの間にか君のことを忘れるほどに大きくなってしまった。なのに手で涙を拭えないほど、この大通りの真ん中で、私はまた泣いているんだ。

 ひとしきり泣いた後、顔を上げるとそこにはリカちゃんが立っていた。リカちゃんは私に近寄ると、ほほえみかけ、優しく頬に触れた。彼女は眩しい光を背負っていた。今度こそ確と伝えよう。そう息を吸った。
「私は」

天谷浩容疑者が運転する車は商店街に猛スピードで突入し、買い物客を次々と撥ね飛ばしました。この事故により未就学児を含む14名が負傷。男性1人が死亡しました。天谷容疑者は過失運転致死傷の罪で現行犯逮捕されました。当時天谷容疑者は飲酒しており……

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コメント(3)
  • ヤミ金?

    2021/04/25/20:36
  • 謎ラスト

    2021/05/28/09:38
  • どういうこと?
    天谷浩って人が語り手だとして、リカちゃんと飲酒運転がどう結び付くの?

    2023/01/22/23:05

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