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にこるさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

黒い霞「死相」
短編 2021/11/02 21:50 1,003view

私は数年前、転職をしました。高校生のときから目指していた職業でしたが3年ほど働いて退職しました。退職の意を上司に報告する際、本当の理由を伝えることができませんでした。

私は高校卒業後、専門学校に通いました。そして、介護に関わる職業に就きました。就職したばかりの頃は、当然分からないことだらけ。体力の必要とする仕事で、小さなミスが人の命に関わることも多く、疲れ切っては帰宅してすぐ寝る毎日でしたが、やりがいのある仕事だと感じていました。しかし、私はあれが見えるたびに、利用者さんと関わることを続けていくことが辛くなり、自ら辞職することを決意しました。

子どものときから、何かが見えていました。ショッピングセンターや近所の路地を歩いていると、顔の周りが黒く霞んだような人が見えるのです。そのような人の近くを通り過ぎるときは、親の手をぎゅっと握り、あまり見ないようにしていました。小学校に入る前から見えていました。しかし、両親にその話をすることはありませんでした。

小学校に入ってから、その黒い霞の意味に気付きました。日直の仕事で職員室に行ったとき、奥の方に座っている他の学年の先生が通路を歩いてきました。その先生は、雰囲気が優しく、何となく好きだったのですが、顔の辺りが霞んでいたのです。そのときも、黒い霞が見えたことは誰にも話していませんでした。その数か月後に、その先生が亡くなったのです。その先生の死をきっかけに、私は死が近い人に会うと「死相」が見えると気付いたのでした。ただし、死相という言葉自体を知ったのは、ずっと後になってからです。

小学校高学年くらいから中学生のころは、死相を気にすることはほとんどなくなりました。慣れてきてしまったのか、無意識に気にしないようにしていたのかは分かりません。しかし、高校3年生のときに、久しぶりに身近な人に黒い霞が見えたのでした。一回り年上の従姉が結婚をし、結婚式に招待されました。仲の良かった従姉の幸せな日、また、生まれて初めて参加する結婚式に心躍る気持ちで参加したのですが、叔父、つまり従姉の父親に見えてしまったのです。でも、そのときの霞はこれまでと違ったもので、何となくあまり嫌な感じがしませんでした。

式の後、そのことを両親に話そうか数日間悩みましたが、受験勉強で忙しくなってきた時期で、話す機会もないまま日が過ぎました。次の年、その叔父は亡くなりました。両親や親戚は、あんなに元気だったのに、と悲しんでいました。叔父の葬式ではお腹の大きな従姉に会いました。叔父が病気になったのは結婚式を挙げることを決める前からのようしたが、従姉が聞かされたのは結婚式も新婚旅行を済ませた後だったそうです。従姉は自分の父の病について何も知らないまま幸せな日々を迎えてきたことにショックだったと言いました。しかし叔父は、最愛の娘の幸せな姿を見ることができたし、何より病気のことは受け入れているのだ、と笑顔で話していたそうです。

私は介護の仕事を通して、誰でも人は最期まで前を向いて生きいく支えをしたい、そんな介護士となりたいと思っていました。ですが、死が近いその職場では黒い霞と隣り合わせ。死相を目の当たりにしながら、利用者さんたちと接するのが耐えられなくなったので転職しました。

最近は街中でも黒い霞を見ることはありません。

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コメント(1)
  • 見えないようになったわけじゃないかもね。

    2021/11/03/18:34

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