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不思議体験

ツキヒコさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

入ってはいけない山〜ボン〜
長編 2020/12/24 14:54 4,732view
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他愛のない作り話だと思って聞いて欲しい。
俺は小さい頃とあるド田舎に住んでいた。特にこれといった特産品があるわけでも、観光名所があるわけでもないつまんねぇ田舎。で、そこには田舎お決まりの『入ってはいけない山』ってのがあったんだ。その『入ってはいけない』ってのは俺たち子供が言ってたんだけど。こういうのって、大人が危ない所に子供を立ち入らせないように言い聞かせるのがセオリーってもんだろ?でも大人たちはむしろ俺たちをその山に入らせよう入らせようとしていた。田んぼの周りとかブラブラほっつき歩いてたら、田植えのおっさんが
「遊びに行くのか。ほんならお山さん(あの山だけはそう呼ばれていた)に行くとええ」
とか言って、村の大人たちはやけにあの山を推してくるんだ。無論俺の両親も。でも決して行けと強制はしなかった。なぜなのか、聞いても教えてくれなかった。この村には俺の他にAとBっていう子供がいて、悪ガキ3人衆なんて呼ばれてたんだけど、別にあの山以外にも遊び場所なんていくらでもあったし、なんとなく不気味で俺たちは入ることは無かった。それに、俺の婆ちゃんが死ぬ間際にな、俺をぐいっと引き寄せて、耳元で
「あの山には絶対に入るな」
って言ったんだ。逝きかけの年寄りとは思えない力だった。
だから、俺たちは『入ってはいけない山』って呼んでた。

いつだったか、たぶん小4くらいのとき。村には一軒だけものすごく立派な家がある。ここら一帯の地主の家で誰も頭が上がらないの。そこに俺とタメくらいの男の子が来たんだ。見たこともない高そうな車が停まってたからよく覚えてる。たぶん孫か何かだと思ったけど、地主とどんな関係かは知らないし興味も無かった。ただ遊び相手が増える!って喜んだよ。過疎でABとしか遊んだことが無かったからね。俺たち3人とも大喜びだったよ。その地主孫(?)をボンと呼ぶことにする。ボンはちょっと鈍臭いおとなし目な子だった。ヤンチャな俺たちとはタイプが違ったけど、都会のこととか色々知ってる博識なボンと俺たちはすぐに仲良くなった。
俺、AB、ボンの4人で遊んでるときあの山の話になったんだけど、どうも俺たち3人とボンの中であの山の認識が食い違ってるんだ。ボンは、家であの山には絶対に近づくなって言われたって言うんだ。俺たちは首を傾げたよ。自分らは真逆のことを言われてたからね。まぁそのときはさほど気にも止めずに木登りとかして遊んだわけ。

忘れもしないあの日。ABの二人とも、馬鹿は風邪を引かないの代名詞みたいなやつらだったのになぜか体調不良で遊べなかった。暇で暇で堪らなかった俺はボンを誘いに行った。そしたら門のところで

「ボンは熱を出して遊べない!帰れ帰れ!」
って怒鳴られたんだよ。意味が分からない俺はムカーッときて悪態吐きながら帰ってった。そしたら後ろからボンが追いかけてきたんだよ。
「お前、熱は?」
って聞いたら、出してない。って言うんだ。
「急にもう君たちとは遊ぶな、外に出るなって言われて……。でも嫌だから、窓から抜けてきた」
って。結構アクティブなんだなって内心思った。俺たちと遊ぶなって何なんだよ!って俺は憤慨した。で、二人だけで何して遊ぶ?ってなってさ、あの山に行ってみようってことになった。俺は事あるごとに勧められていい加減気にはなっていたし、ボンの家の奴らにも腹が立ってたから、言いつけ破っちゃおう!って。まぁ、張り切ってたのは俺だけで、ボンはちょっと困った顔してた。無理ないよな。ボンは行くなってキツく言われてたんだし。
山の麓に着いたら、改めて変な山だと思った。他の山に比べて暗いし、鬱蒼としてるし。極めつきは麓をぐるっと囲むフェンス。すげぇ高くて頑丈だった。でも、前に好奇心で近寄ってみたときには無かったんだよ。ピカピカで最近建てられたみたいだった。丁度ボンが来たときくらいに。ここでボンはビビっちゃって、もう帰ろうよぉとか言ってた。俺は好奇心が恐怖に勝ってどうにか入ろうとした。ピカピカのフェンスは穴1つ無くて、やっと扉を見つけたんだけど特大のカギが掛かってた。ちぇっと舌打ちして、さすがに帰ろうとしたら、後ろの茂みから誰かが現れたんだ。俺もボンも、うわって後ずさりした。そいつは俺たちと同じくらいの背格好の少年だったんだけど、痩せてガリガリだし、着てる服は古くてボロボロだった。おまけに目がギョロってしてて、シチュエーションも相まってかなり怖かった。そいつはかなり訛った言葉で、
「こけへぇりてぇのか?(ここへ入りたいのか?)」
って聞いてきた。俺がコクコクと頷くと
「そぉかそぉか」

と笑って、どこからか鍵を取り出して開けた。なんでコイツ鍵持ってんだ?って訝しんでたら、キイイイッて扉が開いた。ギョロ目が押し開けてた。
「ほれ、へぇりな」
ニヤニヤしながらギョロ目が催促してくる。ボンはもう縮み上がって俺にひっついてるから、俺は仕方なく一緒に入ることにしたんだ。扉を押さえてるギョロ目の横に立って、一歩踏み入ろうとしたら……、いきなりギョロ目がパッと手を出して俺の腕を掴み引き寄せ、反対にボンの背中を押して山の中へ突き飛ばした。もんどりうったボンは草地に転がって、半泣きで顔を上げた。そのときギョロ目は見たことないくらい邪悪な笑みを溢していた。嬉しくて堪らない、といった表情で、
「へぇった!へぇった!」
と笑っていた。しばらく何が起こったのか分からなかった俺はハッと我にかえり、急いでボンを起こして抱えるようにして逃げ帰った。しばらく背後からギョロ目の笑い声が聞こえていた。どこでボンと別れたのか分からないが、とにかく俺は自分ちに辿り着いた。そのときの安堵といったら。動揺してしどろもどろになりながら両親にさっきのことを報告した。べつにジジイがでてきて「お前あそこに入ったのか!!」みたいな展開はなくて、両親はただ黙って聞いていた。でも、変なやつに会ったこと、ボンが突き飛ばされたことを話すと顔色が変わった。今でも忘れられない、驚嘆と微かな喜びが混じった何とも形容し難い表情だった。母親は俺を抱いてわんわん泣き、父親は
「よくやった……。お前だけは守ってやるからな」
とこれまた号泣していた。一体どうしたのかと俺がポカンとしていると、両親は大きなトランクを持ってきて、服とか通帳とかを次々に詰めていった。山での出来事から一時間も経たないうちに、俺は目的地不明の車に揺られていた。両親は、早く、早くとかなり焦った様子で車を飛ばしていた。小さくなる村を眺めながら、もうここには戻ってこないんだなと俺はぼんやり悟った。

その後俺は全然知らない町で暮らした。あの日のことは聞いても絶対に教えてくれなくて、子供ながらにタブーを感じ取った。
それから2年後、両親は失踪した。親戚に俺を預けて。書き置きに『ケジメをつける』とだけ残して。
あれから10年以上経ったが、俺があそこで体験したことが何だったのか、戻れば知ることができるかもしれないが、とてもそんな気にはなれない。
なぜ山に入らせようとしていたのか、なぜボンだけ禁止されていたのか、ボンはその後どうなったのか、あの山には一体何があったのか。あのギョロ目が、前に婆ちゃんに見せてもらったひい爺ちゃんの写真にそっくりだったことも。俺にはもう何も知ることはできない。

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コメント(1)
  • 詳しく書かれるよりは不明のままが好きだけどなー

    2021/01/07/03:04

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