祖母の異常な行動の原因

まだ私が高校生で実家に住んでいたころの話です。

私の実家は岐阜県のとある田舎にあります。
何もない山の中を車で走っていくと、急に数軒の家がでてくる絵にかいたようなド田舎なので、土地として山を保有しています。とはいえ、戦前に曾祖父母が誰かから譲り受けただけのものですので、管理は全くしておらず、その山には数基の無縁仏もあるため、親や私の兄妹は気味悪がって近づくことはありませんでした。

とある夏の昼過ぎ、急に祖母が「山に行ってくる」と出かけていきました。祖母はよく山菜を取りにその山へ行っていましたので、今回もそうだろうと思っていましたが、夕飯時になっても帰ってこないため、心配した父と私で山に様子を見に行くことになりました。
山に入って少し歩くと、ラジオの音が聞こえてきました。祖母は熊除けとしてラジオをつけているので、その音をたよりに歩いて行くと、祖母が１基の無縁仏の前に座り込んでいました。

私と父は驚いて「どうしたの？」と尋ねましたが、祖母は「急に掃除がしたくなって掃除をしていた」と、にっこり笑って答えました。

その笑顔がなんだかとても気味悪く思えて、私は「早く帰ろう！」と祖母の手を引きましたが、祖母は「まだ他のお墓も掃除しないかんのよ。○○さんに(知らない人の名前でした)頼まれたもんで…」と腰を上げようとしません。

困った父は「それはまた今度にして帰るよ」と強引に祖母を立ち上がらせ、連れて帰りました。
その間も祖母は「お墓を掃除せんといかん」とつぶやいていましたが、そんな姿の祖母は初めてだったので、私は本当に恐怖を感じました。

家についてから祖母は夕飯を食べることも無く「寝る」と言って寝室に入っていきました。その様子に父も違和感を抱いていたようで、「明日まで様子を見ておく」と次の日の朝まで寝室のドアを監視していました。

朝食の時間になると祖母が起きてきたため、「昨日どうしたの？」と聞くと、「山菜を採ってたら狸をみつけて…それから覚えてなくて…」と、本人も首をかしげていました。

結局お墓のことは本人に伝えずにいますが、今も祖母は変わりなく生活しています。
いったいあれは何だったのでしょうか。分からずじまいの不思議な出来事でした。