Aだけが聞いた声

友人Aが小学生だった頃の話です。

その日、Aはいつものように数人の友だちと公園で遊んでいました。夕方になり、友だちと別れて、Aは家に帰ることに。
Aは他の子たちと家の方向が違ったので、一人で自転車に乗って帰路につきました。

Aの家までの帰り道は下り坂が多く、スピードを出すと危ないから、ゆっくり気をつけて走りなさいといつも親からきつく言われていたそうです。
Aは言いつけ通りに周囲を確認しながら自転車を漕いでいました。

ある交差点に差し掛かりました。
田舎ということもあり、その交差点には信号がありません。しかし、Aは一旦停止して、ちゃんと左右を確認し、車が来ていないことを確かめてから、再び自転車を漕ぎ始めました。
その時です。

「危ない！！！後ろ！！！」
という女の子の叫び声が聞こえて、Aは咄嗟に急停止して、後ろを振り返りました。

その瞬間、左の路地から車がやってきてAははねられてしまったそうです。

運良く、片足の骨折だけで済んだそうですが、はねられて道路に投げ出されたあと、Aは確かに、「キャハハハハハハハハ」という女の子の心底楽しそうな笑い声を聞いたそうです。

笑い声は、救急車が来てAが運ばれるまで、かなり長い間響いて聞こえていたと言います。

しかし、後になって誰に確認してみても、そんな声は誰も聞いていないんだそうです。
あの時、女の子の声に急停止していなかったら、そもそもAは事故には合わなかったでしょう。

「誰が俺を殺そうとしたんだろうな」

Aはそう呟きました。今でもAは、自転車に乗る時はその道を通らないそうです。