奇々怪々 お知らせ
           
  • 9/1 8月度怖い話グランプリを決定し、殿堂入りを追加しました。

意味怖(意味がわかると怖い話)

想夏さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

どちらにしても
長編 2021/09/07 21:28 591view
 交際中の彼女へ、映画を見に行かないかと誘ったら「それってホラー映画だよね。わたしがそういうの苦手なこと知っているくせに。しかもレイトショウなんてあり得ないわ。一人で行ってよ」と、きっぱり断られてしまった。

 一人で映画を見てもつまらない。話題を共有する相棒が欲しい。だからF君は友人たちを誘ってみたのだが、一緒に行ってくれる相手がなかなか見つからない。仕方がない。彼女に言われたとおり一人で行こう。とうとうF君は相棒探しを断念した。

 レイトショウは二十三時から始まる。上映時間は約二時間だから、映画が終わるのは深夜一時を過ぎている。当然、電車の運行も終わっている時刻だ。だから車で行くことにした。映画が上映される大型シネマは片道三十分ほどの街にある。

 当日、仕事を終え帰宅したF君は、風呂に入り、テレビを見たりゲームをしたりして過ごした。食事は帰る途中の飲食店で済ませてある。あとは出発する時刻が来るまで、うっかり寝てしまわないように時間を潰すだけ。そうこうしているうちに二十二時を過ぎた。

 チケットはすでに購入してある。急ぐ必要はない。しかし映画館への移動手段が車ということもあり、もしかしたら途中で道路工事のために迂回する羽目になるかもしれず、予想以上に時間がかかる可能性がある。そう思ったF君は早めに家を出ることにした。

 夜の道は思ったより空いておりスムーズに流れている。道路工事もアクシデントもなく無事に到着した。車を停めた立体駐車場から映画館の中へ。なんだかがらんとしている。

 人気俳優の主演にもかかわらず、映画の前評判はあまり良くない。興行成績も今ひとつらしい。だから空いているのかもしれない。レイトショウだからという理由もあるだろう。そういえば駐車場もがらがらだった。

 まだ時間があるのでF君は映画のパンフレットや飲み物を買う。入場時刻が近づいても相変わらず閑散としている。というより映画館のスタッフ以外にはF君しかいない。

 今後上映される作品のチラシを見たり、彼女へLINEでメッセージを送ったり。がらんとしたフロアは活気が感じられず、F君のモチベーションも上がらない。

 やっぱりいくら好きでもホラー映画はやめておけばよかったかな。普通のデートの提案だったなら彼女も喜んでくれて断られることもなかったはず。せっかくの金曜日の夜なのに一人で過ごすなんて、などと後悔が込み上げてくる。

 いつの間にか入場時間になっていた。立ち上がったF君は入場ゲートの女性スタッフにチケットを見せ、作品が上映されるNo.5シアタールームへ向かう廊下を歩く。見たところ自分以外にお客さんはいないみたい・・・と、シアターの中へ入ってみたら、いた。

 照度が落とされたほの暗い広い空間。どうやらカップルが二組いるようだ。真ん中あたりと、ずうっと上の、後ろの方のシートに並んで座っている。暗いせいでよくは見えないが後ろのカップルは若いように感じた。真ん中あたりには初老のカップル。はっきり見たのではなく何となくそんな印象を受けたという。白っぽいジャケットを着た男性が右側で左に女性が並んで座っている。

 貸し切りかと思ったら、なんだ、お客さんがいるじゃないか。

 少しホッとしたF君はチケットを確認し、他の客たちを目の端に捉えながら指定の席に座った。そこは初老カップルの右斜め前あたりだった。F君と彼らの間は三座席分ほど離れており、何か話しているらしき声がボソボソと聞こえてくる。聞こえてはくるけれど、会話の内容が聞き取れるほどではない。

 暗い照明がさらに暗くなり、いよいよ映画が始まった。ストーリーはこれといったクライマックスもなく、ただただ暗い陰惨なシーンばかりが続く。期待外れの退屈な映画だった。ホラー映画好きの彼だったが途中で飽きてきた。あくびが出る。斜め後ろのカップルのボソボソした低い話し声も眠気を誘う。でもF君は我慢してエンドロールが終わる最後まで見た。

 照明が明るくなる。入ってきたスタッフの女の子が「上映終了でございます。ありがとうござました」と挨拶をする。立ち上がったF君は何気なく後ろを振り返り、そこで立ち尽くした。

 二百以上あるシートはすべて空っぽだった。誰もいない。F君はたった一人、広い空間にポツンと突っ立ったまま唖然としてしまう。

 あのカップルたちはどこへ行ったのか。シアターへの出入口はF君の前方右側にあり、その一箇所だけだ。先に帰ったのなら、当然、彼の目に入るはずである。急いで出て行ったとしてもそんな時間はなかった。

 もしかしたら自分の気のせいだったのかな。いたと思ったのはただの見間違いで最初から一人だったとか。しかしF君はあのボソボソ話す声とほの白いジャケットを思い出した。

 確かに、はっきりとは見ていないけれど、確かにカップルがいた。離れた後ろの方ともっと前の方と、二組のカップルが。

 人の気配はたとえ離れていても何となく感じるものである。閉鎖された空間であればなおさらだろう。それが映画館のような広い空間であっても、同じ場所にいる人の気配はわかる。

 いるはずなのにいない。いたはずなのに消えた。どうしても納得できないF君は、出入口付近で、笑顔で待機しているスタッフの女の子へ確かめてみようと思った。

「あの。すみません」
「はい?なんでしょうか」

 その若い女性スタッフは、入場した時にチケットを確認した、同じスタッフだった。だったら話が早い。自分の他にお客さんがいたか、それともいなかったのか、聞いたらすぐにわかる。

「ええと。あの・・・」

 聞きかけた彼は、でも、と思い巡らす。

 もしも、いたと言われたら、ではその客はいったいどこへ消えたのかという疑問が残る。もしも、いなかった、レイトショウの客はF君一人だけだったなどと言われたら、彼が見た人影とボソボソ声はいったい何だったのか?

 いた、それともいなかったのか。どちらにしても、いずれの答えであっても嫌だった。だからF君は聞くのをやめて「いいえ。なんでもないです」と誤魔化した。ただ、もしも聞いたら何と答えるか、わざわざ聞かなくてもわかっていたという。

「だって俺以外に、そのレイトショウへ入場したお客さんがもしもいたとしたら、そのスタッフの女の子は笑ってなんかいられないでしょう」
1/2
記事編集(投稿者用) 投稿者プロフィール
管理人に連絡


コメント(2)
  • 映画好きの幽霊だったのかな

    2021/09/07/22:49
  • そうかもかもしれません。
    想夏

    2021/09/07/22:58

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。