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妖怪・言い伝え

夏目さんによる妖怪・言い伝えにまつわる怖い話の投稿です

うわん
短編 2021/09/04 08:43 315view
これは僕がまだ小学生の頃の話。
友達のAと共に、Aの近所の廃屋に肝試しに行こう、という話になったことがある。
そこはまだ最近まで、夫を亡くした老婆が1人で暮らしていたらしいが、その老婆も他界してからはロクに手入れもされず、あっという間に物々しい雰囲気を醸し出す廃墟と化してしまったようだった。
僕は根っからのオカルト好きで、Aもかなりやんちゃな奴だったので、2人共それなりに乗り気だったと思う。
それからもう1人、Bという奴が当日同行していたが、今となっては記憶も曖昧で、具体的に誰だったかはどうしても思い出せない。
侵入を決行したのはある夏の、平日の放課後だった。
霊には興味津々でも、虫が大の苦手だった僕は、鬱蒼とした敷地内をAに先に行かせ、それに続く形で、最後にBがついてきていた。Bはたしか、かなりのビビりだったように思う。迷う素振りを見せないAと僕に対して、1人臆病に振舞っていた記憶がある。
元々、庭であったであろう場所は、人1人として通すまいと言わんばかりに荒れ果てていて、Aはそれを無理やり掻き分けながらずいずいと進んで行った。
やがて枝と枝の隙間から住居が現れ始める。しかし玄関は見当たらず、目の前に見えたのは細い通路であった。
通路を少し進んでみると、左脇に、障子を固く閉ざした部屋が現れた。奥にも台所や居間と思われる部屋が顔をのぞかせていたが、植物に邪魔されていて、通路からでは侵入困難になっていた。
僕がAのシャツの裾を引っ張って、
「開けてみてよ。」
と言うと、Aは顔を若干曇らせつつも、すぐに強がった様子で障子に手をかけた。
何かにつっかえて上手に開かない。
Aが力をかける毎に、障子はガタッガタッと音を立てた。
Bが僕の横でもう帰ろうよ。と繰り返す。
いくら夏といえど、時刻はもう6時半にさしかかろうとしていたと思う。大分薄暗くなってきており、小学生ならばとっくに門限を超えていてもおかしくは無かった。
それでも強情なAと、好奇心を制御出来ない僕はまだ大丈夫と、帰らない意思表示をした。
Bは臆病な性格だったので、一人で来た道を戻る度胸もなく、ただ僕らの決定した行動に従うしかない様子だった。
その内砂埃を吐き出して、障子が左右に騒々しく引いて行き、荒々しい部屋の内部が露になる。
その時、その部屋の隅、磨り硝子の窓に黒い影が高速で通りかかったのが見えた。
僕はその瞬間、心臓が文字通り跳ね上がったと思う。Aの顔に反射的に目を向けると、Aはそれに気づかなかったようで、 きったねー。と、ただそれだけ洩らした。
僕は咄嗟にBに帰ろう、と小声で言った。Bはさっきまで乗り気だった僕が急に態度を変えたことに驚いたようだったが、帰れると安堵して笑顔になった。
Aはそこでかなり渋っていたが、流石に一人で探索出来るほど肝の据わった奴でもなかったのか、最終的には折れて3人ともそこで切り上げることになった。
その時、方向転換をした僕の耳に突然、成人男性と思われる人の、呻き声のような低い声が微かに聞こえてきた。反射的にAに向かって、何?と聞き返したが、その時のAの表情と、脳内再生された先程の声の音程から、瞬時にAの口から発せられたものでは無いと悟る。
同時に全身から変な汗が吹き出した僕のほうを、Bが振り返った。どうやらAもBも、声を聞いたようである。
暫く、恐怖でその場から動けずにいると、今度はもっと近くで、先程の呻き声のような、怒声にも似た声がした。
そこで、一気に金縛りが解けるかの如く、3人とも全力で敷地の外目掛けて走り出した。
ところが、行先を塞ぐように乱暴に生えた草木に邪魔されて失速してしまう。
器用な上運動神経のいいAは、それでもものともしない勢いで、荒れた植物達の群れの中を走り抜けて行ってしまった。
残された僕とBはかなり焦っていて、虫のことなんてもうどうでも良くなっていた。
がむしゃらに木々をかき分けて進んでいると、その最中、視界の端に何かが映り込むのが分かった。
見るなと脳が意識的に司令を送るより早く、僕はそっちの方へ目線を動かしていた。
木々の作り出した暗闇の狭間に見えた人型のソレと、確かに目が合う。
思わず声に出して叫んだのは、後にも先にもこのときだけだと思う。そのくらい、パニックになっていた。
そこからはあまりよく覚えていない。
気がつけば敷地を抜けており、AとBとはその場で解散した。
そこからの帰り道、僕は誰かについてこられているような気がしてならなかった。
それから1年経たずして、その廃屋は敷地ごと整地され、取り壊された。
Aから聞いた話によれば、もしかするとそれは「うわん」という妖怪の仕業かもしれないと、Aの祖母から聞いたとの事だった。
僕もそれから気になって何度か調べたが、詳細不明とあって、具体的にどんな存在なのかまではわからなかった。
しかし確かに、それに近しい何かであったように思う。聞こえた声も、「うわん!」と言う怒声だったと思えばそんな気もしてくるのだった。
これを書いていて、思い出すうちに色々と怖くなってきてしまったのでこの辺にしておくが、とにかくそれ以来、僕は肝試しには絶対に行かないと決めている。
世の中の常識の範疇を超えた出来事というのがきっと必ず起きてしまう。
そんな気がするからだ。
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