奇々怪々 お知らせ

心霊

コンビニ店員さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

コンビニ事務所の偉い人
短編 2020/12/01 17:12 2,988view
1

 コンビニエンスストアで働いた経験のある人ならお分かりだろうが、フランチャイズ店の場合、本部の経営者が抜き打ちで視察に来ることがたまにある。
抜き打ち視察と言ってもその正体は丸判りで、みなそれとなく緊張感が走る。顔バレした後は事務所でお茶を飲む。

 その日自分のシフトは遅番で21時に店入り。雑居ビルの1階がコンビニ店。3階が事務所になっているのでタイムカードを押しに行った。
3階の事務所は基本的に常時無人。1階の店から鍵を借りて3階に上がり、誰もいない事務所の扉を開ける。電気もついていないので、窓から入る街の明かりだけが頼りだ。

タイムカードを押すと、窓際でじっと外を見つめている男性の姿に初めて気付いた。この真っ暗な事務所内で電気もつけずに変な人だな、とは思った。余りにもはっきりとした鮮明な後ろ姿だった。

だから自分はこの人は抜き打ちで視察に来ている本部の偉い人なんだな、と思って小声で挨拶した。
「失礼します、お疲れ様です」
返事が無い。本部の偉い人は学生のバイトなんかに挨拶しないのかな、とちょっと憤慨。

1階に下りて店のレジに入った。ついでに店長に報告。
「店長、事務所に本部の偉い人来てたんで、鍵かけないで下りてきました。挨拶したら無視されちゃいましたよ」

なぜか顔が白くなって硬直する店長。
「誰も来てないよ」
「え?来てましたよ。太って背中丸めて窓から外見てました」 
途端に高校生バイトのKくんが壊れた。

「アハ、アハハハ、一郎さんだ。それ、一郎さんだよー」
Kくん笑いながら涙目。
「え?誰それ」
この日のシフトメンバーでは自分は一番新しく入った店員だった。

「この店の前の副社長。彼女に振られて事務所の窓から飛び降りたんだ」
「またまたーそんないかにもって話でビビらないよ、一郎なんて今ネーミングしました的な名前でさ」

新人バイト驚かそうと思ってもそうはいかないぜ、と言いつつちょっと自分の語尾は震えてた。
話しかけても無視された事実。ただそこにいただけの存在感が急に恐ろしいものに思えてきた。

レジに入った自分の前を通り過ぎながら、店長が一言、

「本当だよ」

それから夜のコンビニは大騒ぎ、
「Kくん、お願い、鍵かけてきてよ」
「俺絶対やだよ!絶対行かねえ」
「どうしてくれんだよ、俺、深夜勤なんだぞ、一人なんだぞ!」
「見たくて見たわけじゃないですよ!抜き打ちの本部の偉い人だと思ったんだもん」
「だからって話しかけてんじゃねーよ、みんなあの事務所にタイムカード押しに行くんだぞ」
 一郎さんは確かに抜き打ちで来た本部の偉い人だった。
一年前にこの世のものではなくなっていただけで。あの日以来、一郎さんが抜き打ちでコンビニ事務所に現れることは無かった。           

1/2
コメント(1)
  • 怖いというより面白いシメ。

    2021/01/20/15:38

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。