ずるずる

　Cさんが食われた。

　私はそう思いました。中からは、あの忌まわしいずるずるという音が聞こえてきます。
　中に入って、どうなっているのか確認したい。
　でも、私は踏みとどまりました。

　だって……、新たなカタツムリが寄生虫の卵を知らず知らずのうちに食べることによって、寄生のループが出来るんですよ。ここでむざむざ入れば、確実に次の犠牲者は私です。
　そう思って、私は家に帰りました。

　すると、なんということでしょう。Cさんが廃墟に通っていたことを知っていた親戚は、私以外にもいたのです。寄生虫は、次の犠牲者のキープまでしっかり行っていました。
　親戚は廃墟に行って、「Cはいなかった」と言って戻って来ました。もちろん、頭から聞こえるずるずるという音と一緒に……。

　ええ、もちろん、その親戚もCさんと同じように行方不明になりましたよ。そのループがどこまで続いたのかは、私には分かりません……。少なくともその親戚は、廃墟のことを私達には言いませんでした。しばらくしてどこかで女の人が行方不明になったらしいので、親戚はその人に言っていたのかもしれません。

　あの忌まわしき事件以来、私は「ずるずる」という音がトラウマになりました。自分が意図的に出しているのは平気なんですけど、他人のは全部駄目です。麺を啜る音も、鼻を啜る音も……。
　本当に迷惑な話ですよ。

　えっ……。あの廃墟ですか？
　ええ、きっと沢山の人を食ったことでしょうね。そしてさぞ豪華になったことでしょう……。きっと今の私が見ても、分からないくらいに……。
　昨日母が私に電話をくれました。「あの廃墟、いつ取り壊したんだっけ」って。あれはもう、自由に場所まで移動できるようになったんですよ。

　気をつけてくださいね。ずるずると音が聞こえる家には、絶対に入ってはいけませんよ。
　大丈夫です。多分、私はまだ寄生されてませんよ。
　だって、今こうして寄生虫の話をできているじゃありませんか。