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妖怪・言い伝え

石の舟。
短編 2021/05/01 23:28 300view
とある山村の宿に泊まった時に聞いた話。

低山とは言え、深く入れば迷うこともある、そんな山にあった「風変わりな舟」
既に失われて記録も無い。今は町に名を変えたが、まだ村だった頃の古老だけが伝えるその舟は、ふらりと移住してきた男が作ったそうだ。
男は人当たりも良く、当時の村で小さな畑を与えられて細々と生きていた。
ある日、山に入った男は見つけた岩を穿ち始めた。長さは1間半と言うから、大体2.5m程度だろうか?
最初は固い岩で殴るように削っていき、段々と形になるとどこからか手に入れた専用のノミと金槌で彫り進めたそうだ。
ちょっとずつちょっとずつ何年もかけて…

人知れず作り上げられたその舟は不格好ながら、確かに”舟”に見えたと言う。中に座って見上げれば深い森の木々の間から空が見える。
男はその後も畑を耕し川で魚を釣って暮らし、貸し与えられた民家の中で静かに息を引き取ったそうだ。
誰もが男が”舟”を作った理由を知りたがった。アレだけの妄執で作り上げた”舟”が無意味に作られたわけではないだろう。

男はこの地に流れてくる前は漁師だった。何かの弾みで海を嫌うようになった。それはきっと、とてもとても哀しい話であっただろう。
でなければあのような”舟”を作り上げることも叶わなかったであろう。
男はこの地に骨を埋める気であった。何があっても生まれ育った海辺の村に帰る気は無かった。
だから「石の舟」をこさえたんだと。
石で作られた舟では重過ぎてどこへなと行くことも出来ないから。

男が死んで数年が経った。
この”石の舟”は村にある風習を作りだした。
男の命日に、村で産まれた長男をこの舟に乗せるのだ。この村を出て行ったりしないようにと。逆に三男あたりになると「舟に近づけもしなかった」そうだ。
寒村ゆえ、男手が欲しくても3男4男ともなると食わせることも難しい。
出稼ぎにでも行けばいい。
女の子は有無を言わさず”舟”に乗せられたと言うが。

今もその舟はあるかと訊ねてみた。
不思議なことに、先の大きな戦争で山を焼かれた時に、”舟”も燃えてしまったそうだ。
ただ、今もその場所は僅かな窪みを残すと言う。
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関連タグ: #事故物件#山#海
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