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不思議体験

GENGOさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

木が泣いた
短編 2021/03/30 14:39 3,394view

私は幼少期を山の中で過ごした。
山の中の小さな村にある祖父の家で。

祖父にはよく山仕事の手伝いをさせられた。
山林の下草を刈らされたり、木の枝打ちをさせられたり。
苗木を植えたこともある。
子供なのでお手伝い程度ではあったけれど。
祖父はよく、
「この苗木が育って、山から切り出すのは
 ワシでもなくオマエでもなく、オマエの孫だろうな。」
などと言っていた。

杉の木などが製材して建材に出来るほどに
太く大きく育つまでには、何十年もかかるので。
だが残念なことに私は未だ独身で、いや、
だが残念なことに当時には既に
「日本の林業は先が無い」
と世間でも言われていた。
外国産の木材や工業製品の建築資材などが急速に大量に
世の中に出回り、林業は確実に儲からなくなっていた。
今にして思えば祖父はむしろ、
「山で生計を立てられるのは自分の代までかもしれない」

と自覚していて、それゆえに夢と思いつつ私に語っていた
のかもしれない。

祖父の言葉で他に記憶に残っているのは
「木が泣いた」
という言葉だ。

ある日の山仕事で、祖父はかなり古くて太い木を
チェンソーで切った。
崖状の斜面に生えていた木で、崖の下には国道が走っていた。
いつ国道に落ちてきてもおかしくないから、いまのうちに
落ちないように手はずを整えたうえで切り落としてしまおう、
ということだった。

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